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「長野市」vs「松本市」は議論の末に、長い県歌で仲直り

 県内競争でもっとも厄介なのがおなじみ長野県だ。あるとき県内の関係者の宴会に同席したことがあったが、長野県の人たちはとにかくよく酒を召し上がる。徳利を片手に持ったまま離さず、酌を続けるので、こちらはあっというまに酩酊だ。トイレで一息入れて席に戻ると、客人のいなくなった隙に、出席者同士で口論が始まっている。

 聞くところによれば、長野県はもとの信濃国。長野市を中心とした北信、松本市の中信、上田市の東信、そして飯田市の南信に分かれるのだそうだ。そして宴会の場はどうやら長野市対松本市の議論になっている。たしかに長野市は県庁所在地で五輪も開催されたが、松本市は本来信濃国の中心地。国宝松本城があり、日本銀行の県内支店は松本市にある。だが、新幹線は長野にあり、松本市にはない。互いに自分の街の良いところ、相手の街のダメなところを酒の勢いに任せて言い合う。

 ちょっとやばいなという雰囲気になったところで宴会はお開き。彼らは全員が立ち上がり喧嘩目前のように見えた相手と肩を組んで、県歌「信濃の国」を歌い始めた。これが長い長い。あたりまえである。この歌の歌詞なんと6番まである。驚くことに県内各地の景勝地を満遍なく巡るのである。善光寺はもちろん、御嶽乗鞍駒ヶ岳、犀川千曲川木曽川天竜川、諏訪湖など全部を紹介していく。そりゃ長くなるに決まっている。

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 そして歌い終わると全員が肩をたたき合いやんや、やんやでお開きだ。同席した東京人はただただ疲れ切るという構図になる。

東京圏の「静岡市」と名古屋圏の「浜松市」

 同じ県内でのライバル同士の自治体は枚挙にいとまがない。群馬県の前橋市と高崎市は、浦和と大宮のような関係。やはり前橋高校と高崎高校は、「まえたか」「たかたか」と言って進学成績を競い合う。広島市と福山市も有名だ。聞くところによれば広島空港は両市が自分の街に空港を引っ張ろうとしあった結果、ちょうど中間にある三原市の山の上で落ち着いたと言われる。

 静岡市と浜松市で仕事をしたときにも、2つの街の人たちの性格の違いに驚いたものだ。静岡市はおっとりとした人が多く、街で道路を渡ろうとすると車は止まってくれるし、こちらが車を走らせ曲がろうとすると、対向車が道を譲ってくれるケースにしばしば出あった。

静岡市の茶畑と浜名湖の鳥居 ©️iStock.com

 ところが浜松市で仕事をしたときは、もちろん相手方のキャラクターもあるのだろうが、静岡と比べて性格が強く、がちゃがちゃとしゃべる独特のイントネーションに頭がくらくらしたことを良く覚えている。もともと駿河、遠江という異なる国であり、静岡は東京圏、浜松は名古屋圏に近いというのも、同じ県にあって両市の違いを際立たせているようだ。