高校駅伝や箱根駅伝で活躍し、昨年の東京マラソンでは、自身の持つ日本記録を21秒縮める2時間5分29秒をマークした大迫傑選手。
大迫選手は東京オリンピックに向けて、日誌を付け始めた。そのノートには、ケニアで練習する難しさやSNSのストレス、競技以外の悩みなど、揺れ動く感情が赤裸々に書きとめられている。『決戦前のランニングノート』(文藝春秋)より一部抜粋して、大迫選手の日誌を紹介する。(全2回の1回目/#2を読む)
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僕がケニアに来た理由。
東京オリンピックの準備のため、2021年1月、僕はケニアにやってきました。いつもは練習のレベルが上がってから高地トレーニングに入ることが多かったのですが、今回はトレーニング初期からケニアに入ることにしました。
ケニアで合宿をするのは今回が2回目。1回目はほぼ1年前。東京オリンピック出場の最後のチャンスだった、東京マラソンの前にやってきました。
それまではアメリカのボルダーで高地トレーニングを行うことが多かったのですが、何度も通ううちに環境にも慣れて、マンネリ化している自分に気がつきました。違う環境に身を置いて、新しい刺激が欲しい。そんな思いでケニアを選びましたが、実際こちらの環境はとても自分に合っていて、東京オリンピックに向けてここで長期合宿をしようと決めました。
ケニアはボルダーよりも標高が高く、世界中からランナーが集まってくるので練習パートナーも多い。そして何より落ち着いて練習ができるのが魅力です。
コロナの感染者数、IOCやJOCの対応、オリンピックは開催されるのか……日本にいても、アメリカにいても、毎日テレビやネットから色々な情報が流れてきて、自分が知りたくないことまで耳に入ってくる。その情報の波に勝てるほど、僕は強くないし、その場にいたら、少なからずのみ込まれてしまって、平穏な気持ちではいられなかったでしょう。
ケニアでは自分から情報を求めにいかないと何も入ってきません。欲しくない情報は見なくていいから、雑念が少なくてすむ。競技を妨げる情報から逃れて、速くなることだけに集中する。ノイズキャンセリングのためというのがケニアを選んだ一番の理由です。
ケニアに来てから1カ月が経って、前回来たときよりもだいぶリラックスをしていると自分でも感じています。日本でも同じような距離やスピードで走っていましたが、あれをしなきゃ、これをしなきゃと余計なことを考えてしまって、どうしても気持ちが散ることが多かった。今は良くも悪くも気持ちに波がないし、なんだかフワフワとした気分でいます。