今年の箱根駅伝で84.3%もの選手が着用し、大きな話題となったナイキの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」。このシューズを履き、世界中で多くの選手が記録を更新したこともあり、昨秋から世界陸連が調査に乗り出した。
その世界陸連の発表を待たず、先日、イギリスのメディア「デイリーメール」や「タイムズ」などが競技用シューズの底の厚さに制限を設け、大会でヴェイパーフライの使用を禁止する見通しであると報道。一方で、「ザ・ガーディアン」はヴェイパーフライを販売禁止にする可能性は低いと報じている。
これを、かつての高速水着「レーザーレーサー」の問題と同列に語る向きも多い。2008年に英スピード社の水着「レーザーレーサー」を着た選手が競泳で世界記録を次々に塗り替えたが、後に規定で制限が加えられた一件だ。しかし、「“レーザーレーサー問題”と“ヴェイパーフライ問題”はまったく違う」と語るのが、駅伝マニア集団「EKIDEN News」の西本武司氏だ。
◆ ◆ ◆
「ヴェイパーフライ履けなくなる問題」のインパクト
まず今回の件で、日本人にとって「ヴェイパーフライ履けなくなる問題」のインパクトがどれだけ強いものだったかということが、浮き彫りになりました。なにせ、シューズ専門家でもない僕に各メディアから取材依頼がくるぐらいですから……。
ただ、僕はまず「もちつけ」、いえ「落ち着け」と言いたい。Twitterを見ても、ここまで騒いでいるのは日本ぐらいのものです。「アシックスの株価が箱根駅伝後に下がり、このニュースで上がった」というニュースもありましたが、アシックスの株価は昨年夏くらいが底値でそもそも、そこから上がってきてますから。世界陸連が何も発表していない段階で何もここまで騒がなくてもいい、騒ぐならもっと前から騒ごうよ、と僕は思っています。
2016年リオ五輪、厚底シューズの衝撃的デビュー
設楽悠太選手や大迫傑選手が日本記録を更新したり、今年のニューイヤー駅伝や箱根駅伝で多くの選手が履いたことでヴェイパーフライは話題となりましたが、そもそも、2016年のリオオリンピックで、ヴェイパーフライの前身である「メイフライ」のデビューが衝撃的だったのです。
1万mのアメリカ記録保持者で、大迫傑選手と同じナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属していたゲーレン・ラップ選手(アメリカ)が1万mとフルマラソンにダブルエントリーし、1万mは日本記録よりも速い27分8秒のタイムで5位入賞、8日後に行われたフルマラソンでは2時間10分5秒で銅メダルを獲得しました。ちなみに、この時フルマラソンで金メダルを獲得したのが、マラソン世界記録保持者エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)で、この2人が履いていたのが、分厚いソールを持つ「メイフライ」だったのです。
さらに言うと、1万mとフルマラソンのダブルエントリー、W入賞を果たしたゲーレン・ラップ選手のトラックスパイクがすごかった。トラックスパイクとは思えないほど「分厚い」スパイクだったのです。当時、僕らのようなファンの間では「トラックとマラソンでシューズによる違和感をなくすためにラップは分厚いスパイクで走った」そういう解釈だったのですが、いまにして思えば、Wエントリーを可能にするために、疲労感を残さないシューズ開発の原型は2016年からの話であったのです。
ちなみにメイフライにカーボンプレートが入っていることを多くの人が知ることにあるのは、2017年5月に行われたフルマラソン2時間切りを目指すナイキのプロジェクト「Breaking2」が発表になった時です。