仕事を干される不安でセクハラに沈黙した過去も
これは彼女がこれまでにも言及してきた、女性の立場の弱さと密接につながっています。彼女が警告されたときの知名度からすれば、告発しても被害の当事者ですらないので、発言は流され、仕事を干されて終わりだったでしょう。今回、ワインスタイン問題で被害を報告したのは、すでに現場を退いた女性たちや、名声を築いて今は女優業の傍ら、別の仕事に打ち込んでいるようなアンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトローといった人々です。業界関係者でも大御所のメリル・ストリープや、いま主演作が立て続く売れっ子のチャステインといった、安全な地位にいる人たちに限られます。チャステインはTwitterで、ワインスタイン問題で被害報告をした女性たちの、まとめられた記事を頻繁にRTしています。ぜひ皆さんも彼女のTwitterを読んでみてください。
『女神の見えざる手』は、しょっぱなから気持ち悪さ全開のセクハラ発言や、女性だからこそスキャンダラスに騒がれてしまうセクシャルな問題も登場します。そして最初から希望を持たず、銃規制を謳いながら実現を信じていない仲間たちの、実行力がある彼女に対する不信も露わな顔。敵のみならず仲間とも対峙するチャステイン=スローンの、強さゆえに一人で屹立している姿は、虚無的で泣けてくるほどでした。
チャステインは最近、ELLE主催のWomen in Hollywoodに登壇し、「すれ違いざまお尻を叩いてきたプロデューサー」がいた経験を語りました。しかしチャステインでさえ、当時は干される不安で沈黙してしまったといいます。どんな世界でもハラスメントの犠牲者が、悔しさや混乱を抱えつつ泣き寝入りすることは多いでしょう。なおかつ女性が権利を訴えるほど、男性の憎しみを受けがちな現状もあります。ハリウッドセレブの、影響力を持つと同時に反発も激しく返ってくる立場で、フェミニストな発言を続ける「女前」なジェシカ・チャステインを、これからも支持したいと思います。
女神の見えざる手
公開表記:10月20日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ