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「僕たちアスリートは可哀想ですか?」「家族に会いたい気持ちにも…」大迫傑が日誌に綴った東京五輪への“思い”

『決戦前のランニングノート』より#2

2021/07/22

source : Sports Graphic Number

genre : エンタメ, スポーツ, 読書

note

日本人が世界と互角に戦うために必要な戦略

 最初はトラックとマラソン、どちらかひとつに絞るつもりはあまりありませんでした。だけど僕はオリンピックどころか、ダイヤモンドリーグでも世界陸上でも、トラックで上位入賞した経験はありません。一方でマラソンはメジャーズで優勝した日本人選手もいるし、僕もシカゴマラソンでは3位に入ることができました。そう考えると、単純な自信の差もあるし、世界と互角に戦える可能性はトラックよりもマラソンの方が高いと思ったのです。

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 一方で、ガチンコ勝負で勝てると思っているほど楽観視はしていません。他の選手がみんな2時間2分台級の走りをしたら、勝ち目はない。だけど絶対にそういう展開にはならないでしょう。

 マラソンは自分のエネルギーを少しずつ出していく作業です。誰かがギアを上げたときに、焦って差を詰めたりすると、エネルギーが急激に減ってしまう。周りに惑わされず、自分のリズムと走りに集中して「待つ」ことが大切なのです。そしてトップ選手の誰かが落ちてきたときに、空いた席に滑り込めるよういかにウエイティングリストの上の方で待っていられるか。それが日本人が世界と互角に戦うために必要な戦略だと思っています。

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 オリンピックが1年延期になって、よかったことも、悪かったこともありました。代表になるために、2019年3月から半年に1度のペースでマラソンを走っていて、その度にハードなトレーニングをしていましたから、延期になって、気持ち的にも体力的にも余裕ができました。あのままオリンピックを走っていたら、ベストの走りはできなかったかもしれません。

 一方で家族と離れて過ごす期間はさらに1年延びました。20年の7月中旬以降は合宿や大会を転々としていたので、家族と一緒に過ごせたのは、ほんの数週間。ケニアに滞在中は、時折ホームシックになるというか、家族に会いたい気持ちにもなりました。最終合宿地をアメリカにしましたが、高地トレーニングでオレゴンを離れる時間も多いですし、東京オリンピックまでもう少しの我慢です。