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《三谷幸喜が60歳に》田村正和ら“重鎮俳優”を軒並みうならせた「脚本術の極意」とは

7月8日は三谷幸喜の誕生日

2021/07/08
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《和田さん、今後もよろしくお願いします》

 和田誠もまた、洋画に関するエッセイ『お楽しみはこれからだ』などの著作を通じて、三谷に大きな影響を与えた一人だ。和田は、文藝春秋のPR誌『本の話』で映画監督ビリー・ワイルダーについて対談するにあたり、編集者から相手は三谷でどうかと提案され、即座に賛成したという。いわく、以前から三谷の書く芝居にもドラマにも感心していて、《この人はきっと映画が好きだし、ビリー・ワイルダーなんか特に好きなんじゃないかなあ、と考えていたのである》(※7)。

和田誠 ©文藝春秋

 この対談で三谷は、和田の博識ぶりに圧倒されながらも、ビデオでワイルダー作品を見返して気づいたことを事細かに指摘している(※8)。そのディテールのこだわり方に感心した和田は、その後、映画誌『キネマ旬報』での連載対談の相手役に彼を指名、『それはまた別の話』『これもまた別の話』というタイトルで単行本化もされた。中学時代から和田のイラストレーションをよく模写していた三谷は、これらの単行本のカバーでスターたちの似顔絵を和田と共作している。

 和田はこのほか、三谷の著書の装丁、また『朝日新聞』の連載コラム「三谷幸喜のありふれた生活」の題字とカットを手がけるなど、一緒に仕事をする機会が多かった。その和田が一昨年亡くなったときの「ありふれた生活」で、三谷は故人との思い出話をつづるとともに、自筆の似顔絵を添えた。新しい絵は描いてはもらえなくなったが、それでも題字と、残されたカットを用いながら、連載は続くこととなり、その回は《和田さん、今後もよろしくお願いします》との言葉で締めくくられた(※9)。

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『朝日新聞』2019年10月17日付夕刊より

『鎌倉殿の13人』で大河ドラマに3度目の登板

 子供の頃から好きだったテレビや映画の要素を作品に取り込み、憧れの人たちともたくさん仕事をしてきた三谷の人生はうらやましくもある(もちろん、これはこれで苦労もあるのだろうが)。目下、再演中のミュージカル『日本の歴史』も、やはり少年時代から好きだった歴史の知識が土台としてある。彼が歴史好きになったのは、市川森一脚本の『黄金の日日』をはじめNHKの大河ドラマによるところが大きい。後年には、『新選組!』(2004年)や『真田丸』(2016年)と自ら大河を手がけることになった。そこでは時代考証にこだわりつつも、史実の間隙を突いて奔放に物語を展開し、話題を呼んだ。来年には3作目の登板となる大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を控える。還暦を迎えた彼が、今度はどんなふうに史実を調理しながら物語を紡ぎ出すのか、いまから楽しみだ。

 ※1 三谷幸喜・松野大介『三谷幸喜 創作を語る』(講談社、2013年)
 ※2 『日経エンタテインメント!』1999年6月号
 ※3 『朝日新聞』2021年5月20日付夕刊
 ※4 『キネマ旬報』2001年6月下旬号
 ※5 『朝日新聞』2001年3月6日付夕刊
 ※6 三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活15 おいしい時間』(朝日新聞出版、2018年)
 ※7 和田誠・三谷幸喜『それはまた別の話』(文藝春秋、1997年)
 ※8 『本の話』1996年2月号
 ※9 『朝日新聞』2019年10月17日付夕刊


 

《三谷幸喜が60歳に》田村正和ら“重鎮俳優”を軒並みうならせた「脚本術の極意」とは

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