コーヒーと、京都。そないな話題で一本撮ろうなんて、NHKさんも、いやらしいわあ。そんな感想も一瞬抱いた『ドキュメント72時間』だが、観ちゃいましたよ、「京都 コーヒー豆スタンドで一息を」の回。
観光客に人気の錦市場にも近い、わずか二坪のコーヒー豆専門店にカメラを据えて、客の姿を撮った。京都のコーヒーの消費量は日本一。舞台となった「びーんず亭」も立ち飲み、テイクアウトOKだが、各種のコーヒー豆を売る。
一日目の昼すぎに来た二十代後半の男性は「パナマ一〇〇gを豆のままで。このパナマ、アルコアイリス農園を」と注文した。わ、マニア度、高いわあ。
でもね、この十年は、これが一般的なの。スペシャルティコーヒーっていうんだけど、質の高い豆を重視する製法。ワインと同じく気候条件に品種、細かい産地で他と差別化を図る。
パナマの農園が生産した豆を、家に帰って挽く青年に、いつからと訊く。一年前に、高倉健さんが古い映画『遙かなる山の呼び声』で、コーヒー淹れてはってるの観て格好いいなと思って試したんです。
近所のラーメン屋で働く立派なガタイの三十六歳、男性が登場。忙がしい仕事の合間に、昼飯を食べてからスタンドでコーヒーを立ち飲み。コロナで仕事は厳しい。仕事うまくいってるときにコーヒー飲み終え、一瞬後にマスクをつまみ「ハァー」と息を吐くのが一番なんですが。そういって仕事場に小走りで帰る。
別の日の昼。超ロン毛の男性が「コロンビア、スイートベリーの生豆(きまめ)を五〇〇g」と注文。いかにも京都のヒッピー風ミュージシャンだ。スタッフに、風情ある自家焙煎の器材をスマホ画面で見せてくれる。ZARDのオリコン一位曲の作曲、ギターも手がけた四十八歳の作曲家だ。白い生豆を焙煎するうち、茶色くなり、やがて黒くなっていくのを見てると、気持ちが少し冷静になるんだって。
初心者もOK。「コーヒー豆ってありますか」と訊く若者。「焙煎屋なので一〇〇gから御用意できます」。色々と好みを聞いて豆を渡す。「グ、グラマ……」「グアテマラですね」。フレンチの店で修業する二十代前半の青年だ。苦いのは駄目だが、デザートやコーヒーも勉強しようとトライ。やっとブラックも飲めるようになった。
私がミルクと砂糖を入れずにコーヒーを飲むようになったのはいつかな。七〇年代末、フレンチ・ローストの味にハマり、ブラックで飲まなきゃと宗旨替えした。昔はコーヒーに旨さを求めなかったのにね。
焙煎と家飲みとスペシャルティが主流の現在だが、豆を買っていく京都人の日常風景が自然に浮かびあがる。さあ、私もコロンビアを飲んで気分転換です。
INFORMATION
『ドキュメント72時間』
NHK 金 22:45〜
https://www.nhk.jp/p/72hours/ts/W3W8WRN8M3/