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「明日は警備員のアルバイトに行くんですよ」派遣添乗員(67)が明かすコロナ禍にあえぐ“旅行業界”のリアル

『旅行業界グラグラ日誌』より #2

2021/07/16
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添乗員はどう対処しているのか

 新型コロナウイルスの猛威にさらされて、社会は大混乱をきたした。中でも先に述べたように、平和産業たる旅行業界の被害は甚大で、業界内のあらゆる企業が惨憺たる事態におちいってしまった。

 その中で仕事を得ている添乗員もまた、もちろん例外ではない。半年ほど仕事は、完全にストップ。それでもコロナの勢いが下火になって、国内ツアーの添乗業務は、秋頃からじょじょに復活し始めた。

 けれども海外ツアーは令和2年の末現在、仕事再開の目処はまったく立っていない。それに対して添乗員たちは、大別すると次の2つの処し方で、厄難をやり過ごそうとしている。

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 まず大方は国内の添乗業務にスライドし、海外ツアーの復活を待つことにするという対処の仕方だ。

 一方これを機に、転職してしまった人も少なくない。その人たちも、2通りに分類される。 とりあえずは様子見で、別の仕事についているというグループ。そしてこの騒動を潮に、すっぱりと添乗員から足を洗ってしまった人たちだ。

 添乗員というのは、収入が不安定な浮草稼業である。今回の感染症の大流行で、改めて寄る辺なき脆弱な職業ということを、身をもって思い知らされた。

 もともと転職のしやすい、若い年齢層の少なからぬ人たちは、収入の安定した仕事につかなければとは思っていた。

 思ってはいるものの添乗業務というのは、いろいろな所に旅することができるという、遊びの要素がふんだんにある、面白みのある仕事である。

 おまけにノルマなど、数字に追いたてられるわけでもない。だから拘束時間が長い、賃金が低いなどの問題はあるものの、いたって気楽な稼業なのである。

 いわばぬるま湯につかっていて、このままではカゼを引いてしまうから、早いところ出なければと自覚しつつ、ついついズルズルと先延ばしをしてしまう状態と似ている。

 ぬるま湯から脱出する格好のキッカケとなったのが、他ならぬパンデミックなのであった。