もっと過酷な状況に追い込まれているのが…
何しろありとあらゆる団体ツアーが、いっきょに消滅してしまったのだ。旅行会社はツアー商品を販売して、利益を得ている。そのメシの種を売ることがままならない異常事態が、半年にわたって続いたのである。
より深刻なのが、海外ツアー専門の旅行会社である。令和2年の末に至るも、日本からのツアーの海外渡航は、できない状態が続いている。
同様なのが海外からのツーリストを当てにしている旅行会社、土産物業者、ホテルなどである。いつまで続くぬかるみぞ、かは誰にも分からない。
さらにもっと過酷な状況に追いこまれているのが、航空、鉄道、バスなどの運輸業界である。
旅行会社の経費の大半を占めているのは、人件費である。そのために各社はリストラや賃金、ボーナスカットなどによって経費を抑えることに傾注し、なんとか会社を維持している。
運輸業界ももちろん、人件費に苦しんでいる。そしてこの業界はそれに加えて、固定費が重くのしかかっている。飛行機、鉄道車両、バスなどは、維持管理費がかかるのだ。
観光ツアーが霧散し、テレワークなどでビジネス利用も激減して、交通機関の需要は大幅に落ちこんでしまった。
しかしたとえ飛行機は飛ばず、新幹線は走らなくとも、コストがかかる企業体質なのである。だから苦しみは、旅行会社の比ではないのだ。
一本足打法の悲劇
国内ツアーの添乗員にもっとも身近なのは、バス会社である。添乗員とバスドライバーは、いわば仕事仲間である。
一口にバス会社といっても、業務内容は様々である。路線バスを運営している会社、貸し切りバス専門の会社、そしてその両方を運営している会社。
コロナ禍で人出が少なくなり、すべてのバス会社がダメージを受けた。中でももっとも深刻なのが、貸し切り専門の一本足打法の会社である。
それまでは需要が拡大する一方で、アクセルを目いっぱい踏み続けていたところへ、急ブレーキがかかってしまった。バスもドライバーも不足状態であったのが、逆ににわかに余剰資産と化してしまったのである。
バス業界は、中小や零細企業が多い。だから会社を維持する資金が底をつき、廃業に追いこまれてしまったケースが少なくない。
ツテをたよってマスクを仕入れ、糊口をしのいだ会社もあったという。ふだんはハンドルを握っている、いかつい顔をしたドライバーが、ペコペコ頭を下げてマスクを売り歩く姿は、100年に1度と言われる危機ならではの変事であろう。
そうして何とか難局を乗りこえたとしても、ドライバーたちの苦しみは、現在進行形なのである。
彼らはハンドルを握り、バスを走らせてナンボという世界の住人である。仕事が減って、収入がガタ落ちとなっている状態は継続している。
晩秋のツアーで仕事を組んだドライバーが、「明日は警備員のアルバイトに行くんですよ」と、哀愁をにじませた笑顔で語ったものである。