50歳で旅行業界に転職し、67歳の現在も日雇い派遣添乗員として仕事を続ける梅村達氏の著書『旅行業界グラグラ日誌』(朝日新聞出版)では、海千山千の業界人と理不尽なお客が引き起こすトラブルに振り回されるさまが数多く紹介されている。
旅行代理店、旅館、バス会社、土産物店、添乗員……。苦境の旅行業界で奮闘する人々の姿を軽妙なタッチで描いた同書の一部を抜粋し、同氏が時代の変化を実感したという旅行会社へのクレームを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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話し合えばすむ場合でも、メールが使われている
私が添乗員の仕事を始める少し前のこと。新聞の人生相談のコーナーに、サラリーマンが仕事上の悩みを訴えていた。内容はだいたい、以下の通りである。
自分が勤務している会社では、業務連絡にメールを使用している。社員どうしの席が近く、話し合えばすむ場合でも、メールが使われている。そういう仕事環境になじむことができず、最近はウツ気味で苦しんでいる。
もうふた昔も前の新聞記事である。それなのになぜ覚えているかといえば、私も同じタイプの人間だからである。
新型コロナウイルスの感染が拡大の一途をたどっていた頃、テレワーク勤務を導入する企業がいっきょに増えた。コロナ禍によって仕事環境の光景が、一変した感さえしたものだった。
変化は仕事を取りまく環境だけにとどまらなかった。オンラインでの教育、医療、吞み会、葬儀など、社会のあらゆる面でデジタル化が進展した。身近なところでは、デジタル監視システムとは最も縁遠いような感じのバスのドライバーも、時代の波にいやおうなく組みこまれている。
一時、ドライバーの体調不良が原因で、バスの事故が頻発したことがあった。そのため大手のバス会社では、バス内にドライバー監視用のカメラを設置しているところが多い。さらに録音もしているそうだ。
また彼らは昼休みなどの休憩時に、アルコールを吞んでいるか否かをチェックする機械に、息を吐いている。そしてその結果を専用の接続システムで、会社に送信している。