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ソロ活動を始めてまもなく乳がんと診断され…

 矢方が乳がんと診断されたのは、2017年にグループを卒業し、個人での活動を始めてまもない25歳のときだった。当初は伏せていた病名を、間違った情報を世の中に出したくないと思って手術後に公表したところ、メディアからも問い合わせがあいつぐ。なかでもNHK名古屋から取材を受けたのきっかけに、同局のサイトで映像日記「#乳がんダイアリー 矢方美紀」をスタートし、昨年6月の28歳の誕生日まで2年間続けた。この企画から派生して、術後も治療を続ける日々を追ったドキュメンタリー番組『26歳の乳がんダイアリー 矢方美紀』、『乳がんダイアリー 矢方美紀 2020 夢をあきらめたくない』も放送されている。

矢方美紀 ©文藝春秋

 ドキュメンタリーでは、矢方が治療と並行して、昔から憧れてきた職業である声優に挑戦し、そのなかで壁に直面するさまも紹介されていた。そんな彼女に対し、所属する声優プロダクションの社長が、がんだということはあまり考えずに、あくまで仲間として向き合い、相手のことを思って厳しい言葉も辞さない姿勢が印象に残った。

「無理して出勤」をよしとする時代は終わった

 いまや日本の女性の11人に1人が乳がんと診断され、がん全般にいたっては日本人の2人に1人が診断されるともいわれている。かつてのようにがんは必ずしも不治の病ではなくなり、治療を続けながらも日常生活を送っている人も思いのほか多い。そのなかで、患者自身がいかに病気と向き合うかということばかりでなく、患者に対し周囲の人たちがどう接していくかを考える上でも、矢方のケースはさまざまな示唆を与えてくれる。

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 思えば、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、私たちは、病気や身体との向き合い方を否応なしに考え直す必要に迫られた。たとえば、少し前までは、風邪をひくなどしても、仕事に穴を開けないよう多少無理をしても出勤しなければならないという風潮が強かった。だが、ここ数年、そうした状況が変わりつつあることは、風邪薬のCMなどを見てもあきらかだ。その傾向にコロナ禍が拍車をかけたのは間違いない。

 いまもっとも勢いに乗っているグループのひとつである日向坂46では、ここ1年以内だけでも5人のメンバーがあいついで体の不調のため活動を一時休止している。先月にはシングル表題曲のセンター常連である小坂菜緒が体調不良のため活動休止に入り、今月開催された姉妹グループ・櫻坂46との野外イベント「W-KEYAKI FES.2021」も欠席した。ただ、これは逆にいえば、メンバーに不調を確認したら大事をとって一旦休ませるとともに、その間もグループとして活動が継続できるバックアップ体制が整えられているという証しでもある。ファンの側でもそれを理解し、メンバーが完全に回復するまで待つ姿勢が定着したように思う。そこには、先述のような時代の変化も反映されているのだろう。

【参考文献】
中元日芽香『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』(文藝春秋)
矢方美紀『きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー~』(双葉社)