しかし、高齢となったB子さんはゴミ屋敷の生活にたまりかねたのか、ここ数年の間に家から逃げ出し、遺産として譲り受けた自身の実家に戻った。だが、そこもゴミ屋敷に。近隣からの苦情で発覚し、B子さんは施設へ入所となった。そしてその時点で息子の姿は元の家になかったという。
“親子”でゴミ屋敷化が増加
実は現在も息子の行方はわからない。今回の整理(清掃)依頼は、A男さんの親戚からである。家を取り壊す場合でも、中に物(ゴミ)がある状態では解体作業ができないためだ。
血縁関係のない二人でゴミ屋敷を築き、その二人が離れたあとも、それぞれの場所でゴミ屋敷が形成されるのが私は不思議でならなかったが、石見さんは「よくあること」と繰り返す。
「ゴミ屋敷のゴミレベルに慣れると、場所を移動してもまた同じようになる。我々にとって厄介な案件は、このように“親子”でゴミ屋敷化するパターンです。今、増えてきているんですよ。子供といっても40代から50代くらいのため行政が介入しづらい。大抵は高齢の親の財産を食いつぶしながら生活していて、再建が容易ではありません」
ここまで進行すると、家族の誰かが死ぬか、体調を崩すかしなければ終止符を打てないという。
大量に発見された“ションペット”
ところで今回の2階の息子エリアからは、あとから茶色のペットボトルが大量に発見された。中身は尿だ。重度のゴミ屋敷だとトイレが使えなくなるため、居住者はペットボトルで用を足すようになる。作業員の間で“ションペット”と呼ばれる。
「ゴミ屋敷が日常化してしまうと、トイレはペットボトルという感覚になるんでしょう」と、石見さんは言う。
「家の中に1本見つかれば、普通は100本以上出てきます。私はゴミ屋敷を“戦地”のようなものだと捉え、戦略を練って突撃する気持ちで作業(掃除)に臨んでいます。
ションペットもある種、爆弾。かつてはこの烏龍茶が入っているような茶色のペットボトルを発見しても何かわからず、時にはうっかり踏んでしまって周囲に漏れてしまったり、破裂したりして大変な目に遭いました。今はペットボトルを見たら疑います」
ションペットを見つけたら、漏れないように専用のハードな衣装ケースに収容して、会社(あんしんネット)まで持ち帰る。そして1本ずつ中身の尿をトイレに流さなければならない。