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「つらい」「気が狂う」

「ゴミ屋敷の現場で尿を捨てると、臭気でご近所の迷惑になってしまいますから、会社に戻ってから流すしかないんです。1階のトイレで流していると、2階まで臭気があがってきます。これまでの最高記録は1軒に5400本のションペットがありました。もちろんすべてフタを開けて、中身をトイレに捨てました。防毒ガスマスクを着用してやりましたよ」

 この尿をトイレでひたすら流す作業については、誰もが「つらい」「気が狂う」と言う。時には吐いてしまう作業員もいると聞いた。ションペットの処理作業に慣れはなく、長年の経験を積む石見さんでさえも「これをやる時は一切の思考を停止させて、ほぼ無心で動いている」と話す。

「正常な感覚で臨むと、頭がおかしくなるかもしれません。みんな本音はやりたくないですし、それをやらせるほうもまた覚悟がいります」

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 ちなみにこの作業をアルバイトが行う時は、通常の時給に“20%程度の上増し”がされる。あるアルバイト作業員が怒ったように言う。

「社会的にきちんとしている人ほど、部屋にションペットがあったりするんですよ。お茶の先生、学校の先生、医療関係者とか。人前できちんとしすぎているから、家の中がイカれちゃうんじゃないんですか。靴箱にションペットがずらりと並んでいたこともありました。そんな現場では、よく社員さんから指導される“依頼人の心に寄り添う”なんて絶対無理ですね」

ゴミ屋敷にしてしまう人は『感情労働』が多い

 社会的にきちんとしている人の部屋に、ションペットがある。私が現場で驚いたことの一つである。

 これについて早稲田大学の石田光規教授は「ゴミ屋敷にしてしまう人は、『感情労働』が多いといわれている」と指摘する。感情労働とは、相手(顧客や患者)の精神を特別な状態に導くため、本来の感情を抑圧して業務の遂行を求められる労働のことだ。

「業務の対象が“人”であるため、感情を自分で作りあげるのです。医療従事者や先生と呼ばれる職種が代表的で、人と接する時に一定の役割を要求されます。そちらでがんばりすぎて消耗しきってしまい、家の中まで気が回らないという面はあるでしょう」

 肉体労働や頭脳を使った仕事をして疲れたら休息するように、感情労働の人も、「人」に疲れたら一人になりたいと思うにちがいない。しかしその結果、家の中の「物」を動かす力が残らなくなる。その人をサポートする力が求められる。