うずたかく積み上がったゴミ山に登り、虫が湧いている箇所に手を突っ込み、放置された排泄物を片付けて……。「きつい」「汚い」「危険」な要素が含まれている労働を称す「3K」のなかでも、とりわけ厳しいゴミ屋敷清掃の仕事。
なぜゴミ屋敷は生まれ、その状態のまま放置してしまうのだろうか。ジャーナリストの笹井恵里子氏は作業員の一人として片付けを手伝い、その取材をまとめた『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)を上梓した。ここでは同書の一部を抜粋。ゴミ屋敷清掃現場の実態を紹介する。
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家族それぞれがゴミ山を
家族と一緒に暮らしていても、「不和」が原因でゴミ屋敷になることもある。
再び8月の暑い夏の日、神奈川県の高級住宅街の一角にある戸建て内を片付ける仕事が始まった。10人弱の男性スタッフで取りかかり、5日間行う。私は初日の作業に加わらせてもらった。
「作業服のボタンは上までしっかり締めてください。服の中に虫やダニが入ってきます。マスクも二重にして鼻からあごまで覆うこと。帽子や手袋も着用してくださいね」
先輩作業員から注意を受けて慌てて身なりを整える。
「目をつぶって!」
今度は石見さん(編集部注:生前・遺品整理会社「あんしんネット」の事業部長)が私に声をかける。防護服の上から全身くまなく虫除けスプレーをかけられた。
作業1日目である本日は、2トントラックが満タンになるまでゴミを搬出して、家の中の動線を確保することが目標。
しかし玄関を開けると、いきなり高さ190センチ程度のゴミ山があって中に入れない。ひとまず全員で玄関まわりのゴミ山を搬出しようということになった。何層にも積み重なったゴミはカチコチに固まっていて、一人がクワでゴミをかきだし、それを皆がいつもの引っ越しに使うサイズの段ボールに投げこんでいく。バッサーン、ズッドーンと鈍い音がする。滝のように汗が流れ出るが、強烈に汚れた手ではぬぐうこともできず目にしみた。
ゴミの内容を見ていると、家主がいなくなったのはつい最近だが、ここはもうずっと前から時が止まっていたのがわかる。