文春オンライン

《芥川賞受賞》「タピオカミルクティー、パイナップルケーキ、マンゴー…苦手で食べられません」 台湾出身の作家、李琴峰が感じたカテゴライズの“痛み”

『彼岸花が咲く島』芥川賞受賞インタビュー

2021/07/16
note

存在しない言語の、文法も単語帳も作りました

 SNSを含め、李さんは多彩な発信のチャンネルを持つ。

 台湾で生まれ育った李さんは台湾大学卒業後に日本へ留学。そのまま日本で翻訳、通訳、文筆業をしながら、日本語で小説も書き始めた。2017年に「独舞」(単行本化を機に『独り舞』に改題)で小説家としてデビューし、2019年の『五つ数えれば三日月が』に続き二度目の芥川賞ノミネートで今回の受賞に至っている。

 そんな経歴も関係してか、小説家として広く耳目を集めるようになった今も、詩やエッセイなど幅広い書きものをするのだ。

ADVERTISEMENT

「そうですね、それぞれ持ち味やつくり方が違っておもしろいですよ。たとえばエッセイを書くというのは、自分の考えにピタッと当てはまるような言葉探しをするのが基本。それに比べて小説は、人物像をつくったり物語を構想したり、もっといろんな手法や技術が関わってきて、ずいぶん複雑な作業になります」

©鈴木七絵/文藝春秋

 今回の受賞作「彼岸花が咲く島」は、ひとつの島の歴史と生活を描き出すスケールの大きな物語。たしかにこれだけの世界をイチから構築するのは骨が折れそう。

「いろんな設定を自分のなかで決めていきましたね。そのうえで大事になるのはやっぱりディテール。住人が踊る場面が出てきますけど、じゃあどんな踊りをするのかといったところはきちんとつくり込まないといけない。ケガの治し方や、どういう魚をとって食べるかといった生活のこまごましたところは、琉球諸島や台湾あたりの伝統的な暮らしを参考にしようと、いろいろと調べました」

 とりわけ今作で驚かされるのは、人々が使う言語体系までつくってしまったこと。

「一作ごとに文学をアップデートしたいと会見でも言いましたけど、今回の作品でやりたかったことは大きくふたつあって、そのひとつが『言語的な実験』でした。この世に存在していない言語をつくって、その言葉で小説ができているというのにチャレンジしたかった。『ニホン語』『女語』『ひのもとことば』というのを出していますが、それぞれ文法を設定して、必要な範囲の単語帳も作ってあります」