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《芥川賞受賞》「タピオカミルクティー、パイナップルケーキ、マンゴー…苦手で食べられません」 台湾出身の作家、李琴峰が感じたカテゴライズの“痛み”

『彼岸花が咲く島』芥川賞受賞インタビュー

2021/07/16
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女性が作る共同体を見てみたい

 作中には「餓した」(おなかがすいた)、「過去した」(亡くなった)など、東アジア文化圏にいかにもありそうで魅力的な言葉がどしどし出てくる。

「『過去した』は『過去=グエキ』と読む台湾語があります。元々はどこかへ渡る、どこかへ行くといった意味で、婉曲的には死ぬことも意味します。これを島の言葉にも取り入れて、さらに彼岸へ渡るというような新しい意味を付与したかたちです」

 さてでは今作でやりたかった、もうひとつのこととは?

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「女性が命ずる社会をつくって、見てみたいということでした。女性が指導者に就く状況も世にはありますが、それはトップが変わっただけで男性優位・中心社会は揺らがないことも多い。中国では唐の時代に則天武后という女性の皇帝がいましたが、周りの官僚は全員男性でした。そうではなくて、もっと本質的なところから異なる状況を創造してみたかった」

第165回直木賞を受賞した、澤田瞳子さん(左)、佐藤究さん(中央)と

 チャレンジは成功した、そうみなしていいだろうか。

「ひとまずはそうですね。思い切った挑戦をした分、この作品に賛否両論があるのもわかっています(笑)。でも自分の中では、ひとつの到達点になったと思います」

 母語ではない日本語という言語で小説を書き始めて10年にも満たぬうち、こうして「ひとつの到達点」へ行き着いた。書くことに注ぐ時間と労力は膨大なもの?

「日本語は母語じゃないということもあって、私は書くスピードがあまり早くない。むしろ遅い部類じゃないですか。だからもう時間をかけるしかないです。そうはいっても、持てる時間のすべてを書くことに使うようなタイプでもなくて、書いたり読んだりは生活の中心ではありますが、合間にゲームで遊んだりアニメを観たりもよくしていますよ。時間があれば旅行をしたりとか。小説を書くうえでは、外の世界に触れていないといけないという実感もあるんです。外部からの刺激がないと、内から湧いてくるものがなくなってきそうですから」