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《鳥栖市いじめ後遺症訴訟》カッターをカチカチと鳴らしながら振り下ろし…いじめは認定でも、学校側の責任は不問に

控訴審判決をレポートする

2021/07/18
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 佐賀県鳥栖市立の中学校で2012年4月の入学直後から、発覚する10月までの7ヶ月間、佐藤和威さん(21)は複数の同級生から暴力を繰り返された。和威さんと両親、妹は、加害生徒のうち8人と保護者に損害賠償を求め、また学校の対応が安全配慮義務に反するとして鳥栖市を訴えていた。

 7月12日、福岡高裁(増田稔裁判長)で判決言い渡しがあった。一審同様に、鳥栖市に対する請求を棄却した。一方、いじめについて、弁護団は「拷問・恐喝行為」と位置付けてきたが、「肉体的、精神的苦痛を与える加害行為を継続的に受けた」として、個々の行為を判断した一審よりも厳しく認定した。

実名、顔出しでいじめ被害を訴えている佐藤和威さん(21)

 いじめのきっかけとなる出来事は、中学入学前、加害者Aが、和威さん宅付近で3、4歳の女児にエアガンを向けて撃っていたときに起きた。それほど威力の強いものではなかったが、その女児は泣き出してしまった。その場にいた和威さんはAの行為を止めようとしたが、エアガンを撃つのをやめなかった、と控訴審では認定された。

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「加害者Aから『いい格好しやがって』と言われました。Aとは、同じ小学校だったんですが、それまで何もされていませんでした。今、あのときに戻っても、女児へのいじめを止めていると思います」(和威さん、控訴審口頭弁論後の筆者の取材に)

このような判決だと、同じような被害にあっている子が救われない

 この日の判決言い渡しでは、増田裁判長は「判決を変更する」としたものの、いじめの認定はされていた。しかし、市の安全配慮義務違反が認められなかったため、閉廷後、和威さんは腕を組みながら肩を落とした。両親と妹はしばらく席を立とうとしなかった。和威さんは判決後の会見で一呼吸してから、声を振り絞る様にこう述べた。

「今回の判決を受けまして、加害者がやったことはだいたい認められましたが、市側にあった加害行為(安全配慮義務違反)は認められませんでした。第一審と同じように、“こういう被害行為にあった子どもは、死んだほうがいい”と言われているようなもの。このような判決だと、当時の自分を含め、同じような被害にあっている子というのは救われることはない」

 判決は、2012年当時、文部科学省が調査で用いていた「いじめ」の定義について、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない」とした上で、和威さんは「他の生徒からいじめを継続的に受けていたと認めることができる」「他人の身体や財産等を害してはならず、これを害した場合にはその行為の責任を負わなければならない」とした。