体や心の痛みを回避するため、解離症状を発症
「佐賀地裁では、一つひとつの行為をバラバラにして個別に判断していましたが、控訴審では、5人の加害生徒に対して、継続的に不法行為が行われたとして、その範囲では連帯責任を負わせるという形になっています。原審の見直しがなされ、いじめの一定の理解がなされています」(弁護団、控訴審口頭弁論後の会見)
加害者Bは2012年5月上旬、和威さんに対してお金を要求した。しかし、和威さんがお金を持ってこないため、腹をたてて、和威さんをエアガンで撃った。その後、和威さんは家からお金を持ってきて、Bに渡している。また、AとBは、「スーパーセンタートライアルみやき店」に行く前、金銭を要求したが、和威さんが持っていかない場合は、殴る・蹴るなどの暴力を振るわれることもあった。これも認定された。
毎日のようにエアガンで撃たれているためか、和威さんは、体や心の痛みを回避するため、解離症状を発症していく。1学期や夏休み期間中、自宅近くの神社でも、一方的にエアガンで撃たれる“サバイバルゲーム”をした。以前の取材で訪れたとき、現場にはエアガンの弾がまだ落ちていた。
かばうふりしてお金を取る“平和条約”
このとき、AとB、さらに別の加害者Cが、和威さんへの加害行為を阻止するが、守ってやったという理由で金銭を要求した。判決では“平和条約”を認定していた。この“平和条約”は、一審では、加害行為の一覧のある別紙での掲載扱いだった。控訴審判決では、本文中に書き込まれた。
「加害者たちが僕を盾にしていました。盾になっているときは、加害者たちは撃たないんですが、その代わりにお金をよこせ、と言われるんです。これを“平和条約”と呼んでいました。ただ、そのうち、僕だけが標的になっていました。この“条約”は学校で暴力を振るわれているときも同じです。かばうふりして、お金を取るんです。エアガンの弾は痛いんですが、そのうち、弾が止まっているようにも見えてくるんです。体を通り抜けるようにも感じてきたんです」(和威さん、一審判決前の取材時)
また、クラスで行われていた“プロレスごっこ”について、一審判決では「男子中学生がプロレスごっこなどの名称で格闘技をまねるなどして身体的接触を伴う遊びをすることは珍しくない」「身体的な接触行為により一定の苦痛を受けることを承諾していたといえる」などとして不法行為に認定しなかった。
しかし、控訴審判決では、「遊びやじゃれ合いの範疇を超え、和威さんが苦痛を感じる程度の暴力というべき有形力の行使がされることも多かった」「社会通念上許されるとか、不法行為が成立しないことになるとは解されない」として、不法行為とした。