“兎狩りロード”と呼ばれた農道で走らされ、後ろから……
そのほか、具体的日時は不明だが、例えば、
・Bが、カッターを片手にカチカチと音を立てながら、和威さんに対して金銭を要求。腕をつかんで、カッターナイフの刃を出したまま振り下ろし、腕にあたる直前で止める行為をしていた。
・Dは、授業中ノコギリを振り回し、和威さんとEに向けた。
・Eは、和威さんの手の指を手首につくくらい曲げたり、ゲームの真似と称して三角定規で和威さんの首と背中の間をこすったりした。また、和威さんの首にEが腕を回して抱え込む「首ロック」をかけた。
などの内容も認定されている。いじめられた現場の一つ、農道は加害者の間で“兎狩りロード”と呼ばれていた。
「4月は毎日のように、走らされて、後ろからエアガンで撃たれていたんです。当時、外出するときは、ジャージを着ていました。持っている服のなかで最も痛みを和らげることができたものでした。普通なら、外出時にジャージは着ません」(和威さん、一審判決前の取材時)
こうした事実認定をした上で、反論した加害生徒たちの供述や陳述の信用性がないとして、共同不法行為を認めている。つまり、AとB、C、D、Fの5人が和威さんに対して「中学校入学後のある時点から、10月23日までの間、継続的に加害行為(暴行及び嫌がらせ行為)を加えて」いるとして、連帯して責任を負う、とした。E、G、Hについても、継続的ないじめを認定できないとしているものの、8人全員の賠償責任を認めた。
控訴審第一回口頭弁論後の記者会見で弁護団が「いじめは個々の行為で判断するのではなく、全体の関係性を判断すべき」と話していたが、その通りの方向性となった。
いじめに気付いた家族がカバンにICレコーダーを仕掛けた
ちなみに、いじめ発覚のきっかけは、ICレコーダーの録音だ。和威さんがいじめられていたと主張する時期は、中学1年生の4月から10月下旬。母親は当時、脳梗塞で入院中だった。父親は慣れない家事で手一杯だが、和威さんの異変を感じ始めていた。6月ごろから外出が多くなり、夜遅く帰ってくるようになった。9月には、和威さんがトイレで尿を撒き散らした。そんな中、いじめに気が付いたのは妹だ。体の傷を見つけ、家族は和威さんに黙って、ICレコーダーをカバンに仕掛けた。いじめのやりとりが録音できた。
加害者の保護者の責任も争点だった。しかし、責任は認められなかった。理由としては、加害者が「家庭内で暴力的な態度を見せることはなかった」「素行に問題があると認識することができたとは言えない」「中学校から両親に対して注意や連絡があったとは認められない」などとして、加害者の「問題行動を認識することが可能であったにもかかわらず、監督義務を怠ったと認めることができ」ない、とした。