浮気調査や人探しといった本業のかたわら、子供たちの「いじめ調査」を続けているT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚氏。年間約500件もの相談を受け、いじめ事件の解決に奔走するうちに、いつしか「いじめ探偵」と呼ばれるようになった。阿部氏が手がけた事件の中から、とくに印象的な事例について話を聞いた(プライバシー保護の観点から関係者を仮名にしています)。
阿部氏が原案・シナリオ協力をつとめる漫画『いじめ探偵』(漫画・榎屋克優/小学館)はWEB漫画サイト「やわらかスピリッツ」にて連載中で、単行本第1集が発売された。
ショッピングモールで繰り返されたカツアゲ
阿部氏は昨秋、中1女子・サユリ(仮名)の父親から相談の電話を受けた。
「娘が不登校になった。しばらく理由を話さなかったが、ようやく口を開いてくれて、同級生から30万円ほど恐喝されたことを告白した。おとなしい子だが、そんな目に遭っていたことを聞いて、ショックを受けてる。どうしたらいいだろうか?」
いじめ防止対策推進法では、「いじめにより生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」を「重大事態」と定義している。30万円という金額はどう考えても尋常ではなく、「重大事態」に該当することは明白だ。
阿部氏は「消される前にチャットの履歴や画像といった、いじめの証拠を保存してほしい」と父親に話した。犯罪とも言えるような悪質ないじめを、加害者に認めさせて学校を動かすには状況証拠では足りず、目に見える明確な証拠が必要だ。
サユリの住まいである九州の地方都市へ行くことは難しかったため、他にできることがあれば教えて欲しいという父親に、阿部氏はこんな助言をした。
「お父さん、加害者側の人間を一人見つけることはできますか? 娘さんから味方になりそうな子を聞き出して、接触するんです。『あなたのことは明かさないから、知ってることを教えてほしい』と言うと、罪悪感を持っていれば必ず話してくれます。一度話すと加害者グループを裏切ったことになり、こちらにつく他なくなるので、その人物から徹底的に情報を吸い出すのが、証拠集めには一番です」