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市の責任については消極的な判断

 市の責任についても、控訴審判決では、いじめが発覚する10月23日以前に、一定程度、担任がいじめの行為を認めていながらも、「(安全配慮)義務を怠ったと認められることにはならず、本件で認められる事実を考慮し、本件の全証拠を検討しても、市教委が義務に違反したと認めることはできない」などとして、一審同様、認めなかった。謝罪文を書かせたこと、一時期部活を参加停止させ、別室登校として特別指導をしたこと、和威さんへの支援会議を複数回したことなどから、事後対応についても安全配慮義務違反はないとした。

「原審に続き、鳥栖市に対する責任は否定しました。担任教諭が、いろいろ端緒となりそうな出来事は認識しながらも、それをもっていじめが起きること、その後のいじめの予見ができなくても仕方がないという内容で、佐賀地裁判決と傾向は同じです。

 教育のプロである教師が、積極的にいじめの端緒となる行為を探っていかなければいけない姿勢を認めませんでした。他の判例では、教育のプロとしての教員の責任と認めるものもありますが、今回は消極的でした」(弁護団、控訴審判決後の会見)

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通っていた中学校の校門(2019年11月23日撮影)

現代の精神医学やいじめ論としては、裁判所は遅れている

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症も認めていない。控訴審判決では、「いじめ被害に遭ったことのみで外傷的出来事の基準を満たすと判断することはできない」などを理由にした。また、医師の報告書の記載では、和威さんがどんないじめ行為を受けた事実があることを前提として診断したのか明らかではない、とした。一方、いじめによって「精神的苦痛を受け、精神症状を発症して通院を余儀なくされた」とした。ただし、精神的苦痛がいつまで続いたのかについての言及はない。

「佐賀地裁はPTSDを認めたわけですが、控訴審判決では認めず、精神的苦痛として損害を評価しました。日本を代表するトラウマの専門医の意見書を出しました。医者が和威さんから具体的な加害行為を聞き取っていないというので、PTSDを認めていません。裁判所との認識のギャップがありました。現代の精神医学やいじめ論としては、裁判所は遅れていると言えます。こういうところで免責されると、裁判所では、いじめが永遠に認められなくなってしまいます。真面目な人がバカを見ることになります」(弁護団、控訴審判決後の会見)

母や妹に危害を加えると脅されていた

 また、財産的損害について高裁判決では「32万8400円」と認定した。ただし、和威さん側の主張によると、自宅には母親の脳梗塞の再発に備えた入院費用70万円が保管されており、このお金に手をつけた。そのほか、自分が将来のために貯めておいたお年玉や妹の貯金も含めて、少なくとも100万円を加害生徒たちに奪われたと主張していた。

 なぜそこまでして、それらの金銭に手を出したのか。和威さんは「お金を持っていかなければ、母や妹に危害を加えると脅されていたためです。そのため、仕方がなく持っていかざるを得ませんでした。自分はどうなってもいいと思っていました」と振り返った。