「一軍に出るかどうかの投手にとって二軍生活は大事」
投手コーチとの関係は、投手の成長に大きな影響を与える。特に一軍か二軍かという位置にいる投手にとって、二軍投手コーチの存在は大きい。
今年のヤクルト二軍は、昨年からの小野寺力・松岡健一両コーチに加え、二軍投手チーフコーチとして熟練の尾花髙夫が復帰。スカウトだった山本哲哉が育成投手コーチに就任し、手厚い布陣となった。奥川が小野寺二軍投手コーチとの二人三脚で高卒1年目を過ごしたように、投手一人ひとりに向き合い、育成と調整を手掛けている。
その点に水を向けると、由規は強く頷いた。「その環境って大事だと思います。一軍に出るかどうかの投手にとって二軍生活は大事。今、多分久しぶりに3人体制だと思うんですけど、やっぱり(ビジター試合で)残留した時の練習レパートリーとか、引き出しが全然違う」
最近では戸田球場の試合中に、試合に出ない投手陣がサブグラウンドで練習している姿がある。コーチが投手陣に割く時間も見る目も、確実に増えている印象だ。
「試合でボールボーイとかやらずに練習できるんですよね。それめちゃくちゃ大事。たまには試合を見ることも必要だけど、3時間半とか試合見てバット引きやって……その時間でできることって結構あるんです。その時間は大事」と由規は言い切った。
若い選手には、有効に時間を使ってほしい。自分で考え理解して練習に取り組むことをしてほしい、と。
今、31歳になった由規は、当時よりも確実に自分を知り、多くのものを自分で考えて取り入れることが出来るようになった。そうして自分のピッチングを高めながら、若い選手たちにもチャンスを掴んでほしいと見守っている。
ペナントレースも後半戦が始まり、首位まで僅差の大事な初戦に、奥川は先発を任された。
7回88球1失点。被安打4奪三振9。無四球の好投――。
「開幕時よりすべての球を自信を持って投げている印象でした。その余裕からなのか、表情も以前より飄々と投げているようにも見えましたね」
投げたあとは登録抹消。まだ奥川は育成プランの途中だ。高卒2年目で着実に力をつけ、来季へ大きく羽ばたく予兆にも見える。
奥川と一緒に野球をやったことがあるわけではない。でもだからこそ、という思い入れも持っているのだと由規は言う。自身と通じるところもあり、でも全く違うタイプの「背番号11」に、由規はエールを送る。
「チームも優勝争いをしているので、これから終盤になればなるほど、もっと緊張感が出てきたり、プレッシャーを感じたりする場面が増えると思う。でもそんなことは気にせず、失敗を恐れず若々しく! 打てるものなら打ってみろ精神でガンガン投げていってもらいたい。そうすれば結果も自ずとついてくる」
「11」が登るマウンドを、由規もファンとともに楽しみに待っている。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/47218 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。