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みんなに愛されたメヒア…インタビューで伝えられなかった“文化の違い”

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/08/24
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メヒアの人間性がよく分かるインタビュー

 ライオンズナイターのスタジオを担当して2年目の2019年、雨傘番組「野球居酒屋 獅子」の中で粕谷さんがメヒアにインタビューをするコーナーがあった。メヒアの人間性がよく分かるインタビューを、一部抜粋して記したい。

2019年、インタビューに対し真摯に答えてくれたメヒア ©粕谷紘世

(2019年4月収録)

――応援歌が流れたり、国旗が掲げられたり。打席から見た景色は?

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「自分が来日して1年目からやってもらっている。日本特有の応援の仕方だと思うので、特別な気持ちになるよ。選手それぞれに応援歌があって、いい時でも悪い時でも選手を信じて応援してくれるファンには感謝しているし、期待に応えたいと思っている。特に自分たち外国人選手にとっては、日本のファンの皆さんが自分の国の国旗を持って応援してくれるというのが、母国を代表してここでプレーしているという気持ちになるので、特別にありがたいことなんだ」

(2019年9月18日収録)

――好きな日本語は?

「『お疲れさまでした』。いろんな場面で使えるから。一日がいい日だったら活躍を讃えて使えるし、悪い日だったとしても『明日があるよ』という意味を込めて、今日を労う言葉として使える。皆が思っているほど僕の日本語はうまくないけど、言葉を覚えるのは楽しいし、環境にも恵まれているので毎日楽しく勉強しているよ」

――先月岡田捕手がケガで離脱してしまいましたが

「チームにとって大きな損失。彼はいい野球選手だし、いいチームメイト。チームの雰囲気を和ませたり元気にさせたりする役割もになっていたので、いなくなって存在を痛感している。寂しい」

――写真をベンチに置くように頼んだのはメヒア選手?

「そうだよ。岡田さんにも一緒に戦っていると思ってもらいたかったし、僕らも彼が一緒にいるように感じられるのでいいアイデアだと思ったんだ。僕は彼をチームメイトとして尊敬している。良い時も悪い時も同じように接してくれるんだ。そんな人には出会おうと思って出会えるものではない。そういうチームメイトと一緒に戦えているのは光栄なこと。彼は情熱を見せてくれるし、野球への愛情もある。岡田は自分の息子のようだよ(笑)」

――ここからは仮定の質問に2択で答えてください。魔法のバットがあります。5回に1回HR、2回に1回ヒット。どちらを選ぶ?

「難しいけれど……この時期なら5回に1回HR。確実に点に結び付く方が今の時期は重要。ヒットだと点につながるとは限らないから。シーズンの初めなら2回に1回ヒットのバットを選ぶだろうね」

――連覇を前に、試合に臨む際に大切にしていることは?

「打点。スタメンで出る機会は少ないけれど、大事な場面の代打で出ることが多いので、ランナーをしっかり返してチームに得点を追加することを大事にしている」

――タイムマシンがあります。過去未来どちらに行きたい?

「過去。人生の中でいくつか間違いをしてきた。大きな間違いではないかもしれないが、いろんな場面でもっといい人間になれていたと思うことがある。そこを修正したいんだ」

――未来は気にならない?

「気にならないよ。未来の計画は持っているけれど、そこまで強い興味はないんだ。正直10年後、20年後に生きているかすら、誰も分からないからね」

 インタビュー中、通訳の方が訳し終わる前に何度も言葉を重ね、納得するまで言葉を尽くし、答えてくれたメヒア。粕谷さんもインタビュアーとして接し、その姿勢に感動したと言う。

 特にこの年は手術明けで、春のキャンプでは別メニュー調整が続き、高知県の春野で行われるB班のキャンプに足を運んだ際もほとんど姿を見られなかったそう。そこから一軍に上がり、少ない出番でも腐ることなく取り組む姿、自分に代打を送られ退いた試合ですら他の選手の活躍を自分のことのように喜ぶ、この2019年の姿が忘れられないと、彼女は言う。

 このインタビューの2日後の9月20日、楽天戦で松井裕樹から放った代打サヨナラホームランが、彼女にとって最も嬉しい試合になったことは言うまでもない。

体は大きく、心は優しい。愛すべき選手でした ©粕谷紘世

文化への理解と心配りこそが、メヒアが愛される理由だと気付かされた瞬間

 筆者にとっても、忘れられないやり取りがある。このインタビューのオンエア後、ベンチでメヒアに感謝を伝えた時のことだ。

「あの答えでよかったのか、自信がないよ」と、思わぬことを聞かされた。メヒアが言及したのは以下の問いだ。

――池でおぼれている人がいます。岡田選手、辻監督。どちらかしか助けられません。どちらを助けますか?

「岡田さん。岡田さんをよく知っているから。相手は関係なくて、岡田さんが出てきた時点で岡田さんを選ぶよ(笑)」

 この時は岡田選手との関係性を語ってくれていたメヒアだったが、「インタビューで伝えられなかったことがある」と、迷いながら話してくれた。

「ベネズエラでは困った人がいたら、若い方を救うように教わるんだ。日本のように恵まれた国ではないから、どうすれば少しでも未来がよくなるかを考える必要がある。限られたリソースは若い人にそそぐ。それがベネズエラでの考え方なんだ。対して、日本は年上の方を大切にする。だから僕の考えを日本のラジオで話して理解されるものかと迷った。日本に来てからずっと日本人の考え方を学んできた。だからその時は、文化が違うということを尊重するために、話すのをためらったんだ」

 その時は「ベネズエラの考え方を言ってくれて良かったのに」と率直に思ったのだが、なんと浅はかなことかと今は思う。

 外国人選手の苦労は、グラウンドの上だけにとどまらない。文化が違えば、当然考え方も違う。大切にするものも違う。「文化の違い」とは一言で言うが、それに対応していくのは一元的な努力では済まない。日本語を勉強し、日本の文化を学び、その上で日本の野球に慣れ、対応する。

 かつて、来日当初の苦労をニールも「クリーニングの出し方ひとつから勉強したよ」と話した。生活のすべてを覚えていく中で、周囲に気を配り、ファンに野球選手としての姿を見せ、結果を出す。それがいかに難しいことか、そうしようと思う心がなんと尊いものか。

 文化への理解と心配りこそが、メヒアが愛される理由だと気付かされた瞬間だった。

 突然の退団で、未だ心が追いつかないファンが多いだろう。家族の入国許可がもっと早く認められていれば、と憤りを感じる人もいるだろう。

 それでも、今私たちにできることは、彼がずっとそうしてくれていたように、彼の想いと文化を尊重することだ。家族を大切にしたいと思う彼の気持ちを尊重することだ。そして、彼が愛したライオンズを応援し、彼の幸せを願うことだ。

 インタビューの最後、メヒアはこう締めくくっていた。

‘Hopefully, I can stay forever with Lions. And I’m always thankful for the Lions fans that always support me.’(願わくは、ライオンズと永遠に一緒にいたい。常に自分を応援してくれたライオンズファンにずっと感謝している)

 メヒア選手、ライオンズに来てくれて、ありがとうございました。

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