犬や猫の保護活動をするサークル「犬部」を創立
それでも、太田氏は諦めなかった。独力で海外の研究を調べ、欧米の大学ではすでに一般的だった「動物実験代替法」にたどり着いた。生きた動物ではなく人工的に培養した皮膚などで外科実習を代用する方法を主張し、最終的に大学もそれを認めて太田氏は2006年に無事卒業した。
さらに実習に利用される犬の劣悪な飼育環境を改善する活動をはじめ、犬や猫の保護活動をするサークル「犬部」を創立。この話は、7月22日に公開される映画「犬部!」の原案となったノンフィクション「犬部!」(片野ゆか著・ポプラ文庫)に詳しい。
太田氏の「動物のためであれ、命をすべて救いたい」という思いは、当然「殺処分ゼロ」にもつながっている。ハナ動物病院の病院名も、学生時代に保健所から引き取り、犬部設立の足掛かりともなり、18歳までともに過ごした犬の名前「花子」に由来している。
太田氏は、保護団体などが保護した猫の「TNR」活動(Trap-Neuter-Returnの略。野良猫を捕獲して、去勢・不妊手術をして元の場所に戻すことで増えすぎるのを防ぐ活動)にも積極的に携わっている。依頼があれば関東各県に出向いて犬や猫の譲渡活動の手助けもしているので、休日のほとんどが埋まっているという。
東日本大震災の原発事故で置き去りにされた犬や猫の保護も、太田氏のライフワークの1つだ。現地へ何度も赴き、手術や治療などを重ねてきた。そんな太田氏から、福島での活動について1つだけ心から後悔していることがあると聞いたことがある。
「動物の保護のためですからお金はいただかないことにしているんですけど、一度だけ交通費をつい受け取ってしまったことがありまして……。それを今でも悔やんでいるんです」
太田氏は「被災動物の治療は基本的に無償」という原則を掲げており、交通費も自腹なのだ。野良猫の不妊手術だけは対価を受け取っているが、「病気予防のワクチン込みでオスは3000円、メスは5000円」と一般的な病院の半分以下の価格である。