東京オリンピックの開会式では、天皇は開会宣言を述べなければならない。実はこれは、オリンピック憲章に書かれている。

 第5章「オリンピック競技大会」55「開会式と閉会式」という規程のその3には、「オリンピック競技大会は、 開催地の国の国家元首が以下のいずれかの文章を読み上げ、 開会を宣言する。」との文言があるのだ。

開会式が迫る東京オリンピック ©AFLO

 厳密に言えば、日本には元首はいない。しかし、政府は天皇について「元首であるというふうに言っても差し支えない」(1988年10月の参議院内閣委員会における内閣法制局による答弁)との見解を持ち、対外的には天皇は元首のように扱われており、1964年の東京オリンピックと1972年の札幌オリンピックでは昭和天皇が、1998年の長野オリンピックでは平成の天皇が開会宣言を行った。

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 つまり、今回の東京オリンピックも現天皇が開会宣言を行うのが自然な結論として導き出される。日本という国家を代表する立場として、それに臨まなければならないのである。

定型文がある開会宣言と19年前の「事件」

 また、オリンピック憲章ではその宣言の文言も基本的には一字一句決まっている。

「わたしは、第 ...... (オリンピアードの番号) 回近代オリンピアードを祝い、...... (開催地名)オリンピック競技大会の開会を宣言します。」
※なお、英文では“I declare open the Games of … (name of the host) celebrating the … (number of the Olympiad) … Olympiad of the modern era.”となっている。「英文が原本となります。本憲章の英文と和文に差異がある場合には、英文が優先されます。」との注記もある。

 昭和天皇も先の東京オリンピックで同様の開会宣言を行い、長野オリンピックで開会宣言を行った平成の天皇は冬季オリンピックの定型文をそのまま述べた。オリンピック憲章では、開会式を政治的に利用させないようにする意図から、こうした定型文の開会宣言が規定されている。

2002年、ソルトレーク五輪時のブッシュ大統領。9・11後のアメリカ国民の愛国心に訴えかける内容には波紋が広がった ©AFLO

 ところが、2002年のソルトレーク冬季オリンピックでは、ブッシュアメリカ大統領がオリンピック憲章に定められた宣言文の前に「誇り高く、自信に満ち、感謝の念にあふれた国を代表して」と、アメリカ国民の愛国心に訴えかけるような内容を加えたため、大きな問題となった。9.11同時多発テロ事件を踏まえ、アメリカではナショナルな意識が強く高まっているなか、ブッシュ大統領はそれをより鼓舞するかのような文言を加えたのである。