地元で養われた、バランスの良いアスリート能力
水谷の幼少期について、万記子さんは「物静かな子」だったと振り返る。運動神経が抜群だったことも知られているが、卓球以外のスポーツについても聞いてみると「どの競技が…ということもなく、体育全般が得意だった」と話す。
「豊田町卓球スポーツ少年団自体が『みんなで集まってスポーツをやる』という感じのクラブだったので、マンツーマンで(卓球の)コーチに任せて、それだけやっているような感じではなかったです」
ナショナルチームで行われた水谷の体力測定結果は、あらゆる要素の能力が高い正多角形に近い形になったという。そのバランスの良いアスリート能力は、幼児期から卓球だけでなく様々な競技に触れてきたことと関係していると言われている。小さな頃から卓球だけをやり続けてきているトップ選手が多い中で、こういったバックボーンは非常に異質なものだが、その根底には万記子さんらの指導があったと言える。
金メダルでますます注目が高まる水谷隼と男子卓球
また、歴史的な勝利を遂げたこともあり、その勝敗だけではなく、水谷のファッションや一挙手一投足にも注目が集まった。
激しいラリーが続き、渾身のサーブを放っても全くずれないサングラスにはSNSで驚きの声があがっていた。水谷が使用しているのは大阪にある山本光学が開発した「SWANS」というブランドのもの。試合後には、アクセス集中のためにホームページのサーバーが一時ダウンするという事態になったという。
さらには、試合中に身に着けていたカラフルなネックレスや、過去にインタビューで答えていた「試合時には下着を着用しない」という“ノーパン情報”まで、ネット上に祝福の声とともに、さまざまな逸話が溢れかえった。
万記子さんはそんな“東京五輪フィーバー”についても落ち着いた声で、2016年のリオオリンピックの時の喧騒を例に振り返った。
「前回のリオ五輪の時に個人と団体でメダルをとってから、周囲の見方がガラッと変わったんです。慣れていると言ったら変ですけど、『(金メダルを獲ったらもっと)変わるだろうな』ということは分かっていました。それこそリオ五輪までは男子卓球の注目度はそこまでなかったものですから」
水谷はリオ五輪ではシングルスで銅メダル、団体では銀メダルを獲得している。特にシングルスでは日本人で初のメダル獲得という快挙だった。