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「ドアが開かない!」一歩間違えれば谷底へ転落…あの日、国道488号でのドライブは“命懸け”だった――2021上半期BEST5

2021/08/09

genre : ライフ, , 娯楽, 社会

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異変を感じて車を停めると……

 慎重に走っていると、さらに積雪が増え、遂には車高(地面から車底部までの高さ)を超えるようになった。バンパーに当たった雪がボンネットに跳ね上げられ、フロントガラスに飛び込んでくる。我々が通った後には、2本のタイヤの跡だけではなく、車底部で擦った跡がはっきりと残っていた。

 ここまで雪を巻き上げながら走っていたが、徐々にアクセルが重くなってきた。異変を感じて車を停めて外に出ようとしたが、ドアも重かった。ドアよりも高い位置まで積雪があり、開きづらくなっていたのだ。なんとか雪を押しのけて、ドアを開ける。膝上まで雪に飲まれながら車の前に回り込むと、衝撃的な光景が広がっていた。

車の前には大量の雪が溜まっていた
バックすると、我々の車が“除雪”しながら走っていた跡がはっきりと残っていた

 車の前には大量の雪が溜まっていた。我々の車は、その塊を数メートル先まで押しながら走っていたのだ。車が走った部分は雪が除けられ、雪面が20センチほど低くなっている。これはもう、除雪というレベルだ。まさか、街乗りの車で除雪しながら走っているとは、思ってもいなかった。

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引き返すにはバックするしかない

 これはさすがにマズいと思い、ここで引き返す決断をした。しかし、引き返すのも容易ではなかった。付近に方向転換できるようなスペースはない。進んできたタイヤの跡をトレースするように、ゆっくりとバックするしかなかった。だが、ここまで来る道中、車で雪を踏み固めてしまっているので、帰りのほうが滑りやすい。一方、タイヤの跡から少しでも外れると、動けなくなる可能性もあった。

 バックの最中にもしも滑ってしまったら、崖にぶつかるか、谷底に転落するかのどちらかだ。嫌が応にも、慎重に運転せざるを得なかった。少し広くなった場所で何度も切り返して方向転換できたときは、ようやく生きた心地がした。

タイヤの跡を正確になぞりながらバックしていく
なんとか方向転換でき、帰路についた

 その後の行程は大幅な変更を余儀なくされたが、命からがら脱出し、無事に岐阜の自宅へ帰ることができた。後日、タイヤを点検すると大きな亀裂が入っていた。現場でバーストしていたらと思うと、ゾッとした。