異変を感じて車を停めると……
慎重に走っていると、さらに積雪が増え、遂には車高(地面から車底部までの高さ)を超えるようになった。バンパーに当たった雪がボンネットに跳ね上げられ、フロントガラスに飛び込んでくる。我々が通った後には、2本のタイヤの跡だけではなく、車底部で擦った跡がはっきりと残っていた。
ここまで雪を巻き上げながら走っていたが、徐々にアクセルが重くなってきた。異変を感じて車を停めて外に出ようとしたが、ドアも重かった。ドアよりも高い位置まで積雪があり、開きづらくなっていたのだ。なんとか雪を押しのけて、ドアを開ける。膝上まで雪に飲まれながら車の前に回り込むと、衝撃的な光景が広がっていた。
車の前には大量の雪が溜まっていた。我々の車は、その塊を数メートル先まで押しながら走っていたのだ。車が走った部分は雪が除けられ、雪面が20センチほど低くなっている。これはもう、除雪というレベルだ。まさか、街乗りの車で除雪しながら走っているとは、思ってもいなかった。
引き返すにはバックするしかない
これはさすがにマズいと思い、ここで引き返す決断をした。しかし、引き返すのも容易ではなかった。付近に方向転換できるようなスペースはない。進んできたタイヤの跡をトレースするように、ゆっくりとバックするしかなかった。だが、ここまで来る道中、車で雪を踏み固めてしまっているので、帰りのほうが滑りやすい。一方、タイヤの跡から少しでも外れると、動けなくなる可能性もあった。
バックの最中にもしも滑ってしまったら、崖にぶつかるか、谷底に転落するかのどちらかだ。嫌が応にも、慎重に運転せざるを得なかった。少し広くなった場所で何度も切り返して方向転換できたときは、ようやく生きた心地がした。
その後の行程は大幅な変更を余儀なくされたが、命からがら脱出し、無事に岐阜の自宅へ帰ることができた。後日、タイヤを点検すると大きな亀裂が入っていた。現場でバーストしていたらと思うと、ゾッとした。