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玄関先には血痕と靴跡、さらに目撃者も2人

 奈美子さんはトレーナーにジーパン姿で、廊下から居間に向かって体を投げ出すような格好で倒れていた。首の傷のほか、手に刃物を防ごうとしたような傷もあった。室内を物色したような様子はなく、犯行に使われたとみられる凶器も現場からは発見されなかった。

 だが、犯人は現場に決定的な証拠を残していた。玄関先の血痕と靴跡だ。DNA型鑑定などから、犯人は当時40~50代の女性で、血液型はB型。かかとの部分が高い24センチの韓国製の婦人靴を履いていたことも分かった。もみ合った際に左右いずれかの手をケガしており、高羽さん宅の洗面所の蛇口をひねって手を洗った形跡もあった。

玄関には血痕があり、犯人の靴型(24cm韓国製)までもはっきり残っている ©️諸岡宏樹

 アパートの通路や階段、駐車場には犯人のものとみられる血痕が続き、住宅街にも逃走ルートに沿って血痕が点在し、約500メートル離れた稲生公園付近まで徒歩で逃走していたことも分かった。

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「その間に目撃者が2人いる。1人は『上半身はピンクの服だった』と証言した。返り血を浴びたのを隠すため、奈美子さんの服を着て逃走した可能性も考えられたが、部屋からなくなった服はなかった。もう1人は『稲生公園の前の道路で、車が途切れるのを待っている女を見た』というものだった。その女は片手を握るように押さえて立っており、上下とも黒い服を着ていたという。2人の目撃証言は服装が違うが、人相はピタリと一致している」(捜査関係者)

階段を上がった道路沿いで手を押さえて立っている女が目撃されている ©️諸岡宏樹

 さらに犯人の女は稲生公園で手を洗った痕跡もある。その後、北区方面の住宅街に逃げ込み、途中で血痕が途切れていた。

犯人が手を洗った稲生公園の水飲み場。ここにも血痕が残っていた ©️諸岡宏樹

唯一の目撃者である息子は当時幼く「その記憶がまったくない」

「事件の晩、マスコミの動向を嫌がった県警本部は、警察犬による捜査を一時中断し、その後の降雨によって血痕が消されてしまった。移動手段が徒歩で、駅にも向かっていないことから、徒歩圏内で暮らしていた人物と捉えることもできるが、車で逃走を協力した者がいた可能性もゼロではない。そこからの犯人の足取りが途絶えてしまったんです」(地元紙記者)

この先の路上で血痕が途絶えていた ©️諸岡宏樹

 犯行は息子の航平さん(23)の目の前で行われた。航平さんが無事だったのは不幸中の幸いだが、航平さんは“唯一の目撃者”であるにもかかわらず、「その記憶がまったくない」と話す。

「母の記憶さえ、消えているんです。物心ついたときには、もう母はいなかったわけで、どういう存在かと言われても、答えるのが難しい。それが当たり前で生きてきたので、母が生きていたらどういう生活だったかということも想像できないし、そこに感情はありません。犯人は捕まってほしいですが、どこの誰かも分からないし、犯人に対して怒りみたいな感情があまりないというのが正直なところです。この人が犯人ですと言われても、どう思うのかというのが難しいですね」(航平さん)