また、5年ぐらい前のスマホであれば、アプリのバージョンによってはデータを復元することができたが、最新のスマホでは、メッセージのやり取りやLINEなどのデータを復元させることは、技術的にほぼ不可能に近くなっているという。
「条件によっては、データを復元できるケースもあります。しかし、年々、データを復元する難易度が増しているのは事実です。デジタルフォレンジックの在り方も、データを復元するやり方から、『どういうデータがそこにあったのか』『いつデータが削除されたのか』という、パソコンやスマホの当時の状況を解析していく方法に変わってきています」
A4用紙20万枚、トラック2台分のデータ…数千万円かかることも
デジタルデータは削除・ねつ造が簡単にできてしまうため、調査前のデータの保管やコピーなどの作業が必要となる。手順にそってデータ解析をすすめなくてはいけないし、デジタルフォレンジックの作業中の写真、作業の記録を細かく残さなければならない。
AOSデータの親会社であるAOSテクノロジーズの佐々木隆仁社長の著書『リーガルテック』(アスコム)によれば、ある企業からの依頼で、サーバー6台とパソコン6台を調査して、すべてのデータをプリントアウトしたところ、A4用紙で約20万枚、2トントラック2台分になったという。自宅のパソコンのデータを復元してもらう作業とは、次元がまったく違うようだ。
それゆえ、デジタルフォレンジックの費用は思いのほか高額だ。一般的なパソコン1台のデータ復元の相場はだいたい5万円前後。しかし、デジタルフォレンジックの場合、料金は10倍の50万円以上が相場になるという。
「裁判の証拠となるデジタルフォレンジックの場合、作業工程が複雑になるんです。データ量が多いサーバーの解析や調査内容が複雑である場合には、数百万円から数千万円の予算がかかることもあります」
情報漏洩、離婚問題…もちこまれる案件とは
デジタルフォレンジックに持ち込まれるのは、どのような案件が多いのか。刑事ドラマに出てくるような劇的なデータ解析のエピソードが……と思いきや、小瀬さんに「そんな話はありません(笑)」と言われてしまった。
「捜査機関からの依頼は受けますが、解析したデータが、事件解決の中でどのように活用されたのかまでは弊社として関与しないケースのほうが多いんです。そのデータが裁判でどれだけ有用な証拠として扱われたのか、その後、どうなったのかなど、弊社としては分からないことがほとんどなんです」