残念。では、直接AOSデータに持ち込まれる民事の案件ではどのようなものがあるのか。
「企業からのご依頼で多いのは、情報漏洩の案件です。コロナ禍になってからは、テレワークによる残業関連のご要望も増えています」
パソコンに残された電源のオンオフの履歴、ファイルへのアクセス、USBの挿入の有無などを解析し、勤務状況の実態を調査する。また、最近では企業不祥事の実態を調査するための第三者委員会のデジタルフォレンジックの仕事を請け負うケースも増えているという。
企業ではなく、個人でデジタルフォレンジックを利用するケースはあるのか。
「弊社への問い合わせで多いのは、離婚問題の案件です。あと、交通事故の画像解析も近年非常に多くなってきています」
しかし、第三者のスマホやパソコンを勝手に持ち込まれても、データの解析や復元は行わないという。AOSデータでは原則、弁護士が同席しなければ、個人の案件自体を受け付けていない。
それでも、AOSデータに持ち込まれる刑事事件と民事事件の比率は「半々ぐらい」(小瀬さん)というから、高いお金を払ってでも、デジタルデータで無実を証明したい人、裁判で事実の証拠が欲しい企業はたくさんいるということになる。
デジタルが苦手な弁護士や警察もまだまだいる
最後に小瀬さんにデジタルフォレンジックの仕事の面白さを聞いてみた。
「その人や会社の運命を大きく左右するデータの取り扱いとなるので、間違いは絶対に許されません。法廷で解析した内容を説明することもあるので、責任の重い業務です。でも、それだけやりがいのある仕事だと思っています」
デジタルフォレンジックはオンライン化が進む社会において、必要不可欠な存在になっていくことは間違いない。しかし、デジタルデータに対する重要性と認識が世の中で広まっているかと言えば、まだごく一部の人たちの間でしか利用されていないのが現状だという。
「デジタルデータの案件が苦手な弁護士や捜査関係者は今もなお多くいらっしゃいますので、私たちがお手伝いできることはたくさんあると思います」
多くの日本の企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に時間がかかっているのと同じで、デジタルデータの法的証拠の活用にも、まだまだ時間がかかりそうである。