2007年8月24日深夜、名古屋市内在住のOL・磯谷利恵さん(31、年齢はいずれも事件当時)が市内の住宅地路上を歩いていた時に、突然、3人の男に拉致され、粘着テープで体を固定された。その後、現金6万2000円を奪われた磯谷さんはハンマーで40回ほど殴られ、殺害された。遺体は岐阜県瑞浪市の山中に埋められた。

 事件が発覚するのは翌25日。強盗殺人に関わった男3人のうち無職のK(40)が愛知県警に電話をしたのだ。Kのほか、元朝日新聞セールススタッフT(36)、無職のH(32)も逮捕された。

犯人たちの出会いは「闇の職安」だった

 この名古屋闇サイト殺人事件が注目を浴びたのは、犯行の残酷さもさることながら、男たちが出会った“場所”がインターネット上の“闇サイト”として知られていた「闇の職業安定所」、いわゆる「闇の職安」だったためだ。

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 3人の出会いは、事件の1ヶ月ほど前の7月ごろ。まず、KとHが「闇の職安」で金目的の犯罪仲間を募集する書き込みをして知り合った。そして、Kが、〈ムショ出てから、派遣で生活していますが、実に馬鹿馬鹿しい。組んで何かやりませんか?〉と投稿をした。この書き込みを見たTが、〈以前はオレオレ詐欺をメインにしていたのですが、貧乏すぎて強盗もしたいくらいです。よろしければ、ご連絡ください〉とメールをしたことで3人が知り合った。

 闇サイトをきっかけに強盗となれば、事前に資産などを調査していたのかといえば、実際には行き当たりばったりの犯行だった。3人が集まったとき、Tがこう言った。

「じゃあ、誰でも良いから襲っちゃう。手当り次第行っちゃう。どうせだったら、若い女がいいじゃない。若い女だった方が、気合い入るんじゃないの。拉致って、金と女が持っているキャッシュカードを奪って、暗証番号をいわせて、銀行から金を引き出せば、結構な金が入りますよ」

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 この言葉をきっかけに強盗を決行する。磯谷さんを狙ったのは、「貯金をしていそう」だったからだ。このとき、磯谷さんは最後の抵抗をする。銀行口座の暗証番号を聞き出そうとする犯人に対して「2960」と言ったのだ。これは語呂合わせで「憎むわ」を意味するものだと言われている。実は、犯人グループは磯谷さん殺害前にも、別の強盗殺人を計画。さらに、磯谷さんから十分な現金を奪えなかったこともあり、事件後も新たな強盗殺人を計画していたことまで発覚していた。

 2009年3月、名古屋地方裁判所ではTとHは死刑。Kは、県警に電話をしたことが「自首」扱いとなり、無期懲役に減刑された。Tと検察側は判決を不服として、名古屋高裁に控訴。Tの死刑とKの無期懲役は変わらなかったが、Hは無期懲役となった。検察側はHへの無期懲役を不服として上告した。2012年7月、最高裁でも、判決は変わらなかった。ただし、Kは、別の強盗殺人が発覚したことで死刑判決となり、2019年8月、最高裁で判決が確定した。