その空間に身を置くと誰しも、心身の奥のほうから湧き立つものがあって、居るだけで気分が高まる。石や金属や紙でできた無数の造形物が、いっせいに何かを語りかけてくるように感じられるのだ。ここで自由に遊んでいきなさい、そしてエネルギーをチャージしていけばいいよ、と。
そんな生命力に満ちた「場」を体験できるのが、東京都美術館で開催中の「イサム・ノグチ 発見の道」展だ。
石や紙を変貌自在に
イサム・ノグチといえば、20世紀を代表する彫刻家のひとり。
1904年にロサンゼルスで生まれ、母はアメリカ人で父が日本人だった。生来の力強い造形感覚に、日本文化から学んだ繊細さを加え、独自の抽象表現を確立した。
石彫を多く残したが、他にも陶芸に打ち込んだかと思えば、和紙を用いた照明「あかり」のデザインを手がけたり、果ては庭園造りやランドスケープデザインにも大きな関心を示すなど、1988年に亡くなるまでダイナミックに創作を続けた。
自由に歩き回れる展示形式
今展はイサム・ノグチの創造を3つの章に分けて紹介する構成なのだけど、いずれの展示も回遊式で鑑賞の順序がとくに定められておらず、自由に歩き回れる形式になっているのが楽しい。思えば彫刻とは360度どの角度からでも眺められるものだし、どんな距離感で見たってかまわないのが持ち味。彫刻表現の自由さをよく引き出す展示形態だ。
さて第1章は「彫刻の宇宙」と題されて、1940~80年代の作品が並ぶ。ノグチからすれば脂の乗り切った時期である。硬い花崗岩をドーナツ状にして、ところどころを押し込んだり飛び出させたりしてある《黒い太陽》は、何らかのエネルギーのかたまりに形を与えたように見える。
同じく穴の空いた形態だが、像の表面がごくなめらかにしてあるせいか、静謐な印象をもたらすのは《ヴォイド》。ひとり瞑想し続ける修行僧の姿を思わせる。