「孤狼」は日岡ではなく上林
――先ほど、「日岡の負け戦」とおっしゃっていましたね。
負ける美学みたいなものが出るといいと思っていました。実は上林って言っていることにひとつもウソがないというか、正論しか言っていない。人の殺し方が猟奇的なのが残念なだけですべて正論なんですよね。あとは人の恩に厚く、後輩思い。対して社会にどっぷりな人たちはみんなウソをついているんですよ。
――日岡は社会に生きている人で、上林はひとりで生きているということですか?
そうです。言ってみればこの映画の構造は、日岡が孤狼のように見えるけれど、実は上林が孤狼なんです。本作は孤狼になった気がしている日岡が本当の孤狼になるまでの話が大まかなテーマになっています。
村上さんは自然と表現が出てくるのを待つタイプ
――日岡のスパイとなるチンタを演じた村上虹郎さんのキャスティングについて教えてください。
ちょうど前作で東京国際映画祭に行った際、彼も来ていて、「あ、白石監督、見っけ!」とか言って来て(笑)。「白石監督の映画観たんすよ! なんかあったら使ってください!」みたいな感じでしゃべるんですけど、彼の映画を観ると、その本人の印象とは全然違っていて繊細に演じられるんです。それが今回のチンタにはぴったりだったからお願いしました。
――鈴木さんが緻密に作り込むタイプだとしたら、村上さんは直感的?
ひとつひとつ積み上げるよりは、全部、身体の中に入れて、後は自然と表現が出てくるのを待つという感じですね。虹郎くんは芝居は上手だし、物怖じしないし、現場のみんなが明るくなる、不思議なキャラクターでした。
――松坂さんには前作との違いは感じましたか?
前作の後、『新聞記者』(2019)をやって高く評価されて駆け上がっていくスピードに驚かされましたね。そして役者として、より自信がついている印象を受けました。桃李くんとは何度も組んでいるのもあって、とてもやりやすかったです。