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「いつかあの人たちはそういう事件を起こすと思ってた」

 父に対して母はそう言い放ったそうだ。二番目の弟から父に連絡が入った時点で、恭教と智香子はその時点では逮捕はされておらず彼らに対して捜査の手が及んでいる、という段階だったので、当然ながらまだ報道はされていなかった。

 父は、すぐに弁護士を手配すると同時に、“ある人物”に助けを求めた。この“ある人物”に関して私は多少知っており、何度か交流はあったが、今ここで詳しいことを書くことは出来ない。その“ある人物”は父に向かって、どのように解決して欲しいか? と尋ねたそうだ。父がどのような返答をしたのかは不明だが、この事件がどのような結末を迎えたのか、それを考えると漠然とだが予想はつく。

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俺のせいで彼女は殺されてしまったんだ

 母は、事件が公になり、私が動揺する前に知らせたかったそうだ。

 事件の詳細を聞き、私は呆然とした。私が誰かに彼女のことを話しておけば、彼女の命は奪われなかったのではないか。あのまま、父の言う通り高校卒業まで、あの家で生活していたら、私が殺されたのだろうか。母の車で再び学校に戻ってからも、寮の自分の部屋でも、ずっとそんなことを考えていた。

 俺のせいで彼女は殺されてしまったんだ。俺が誰かに話しておけば命を奪われることはなかったんだ。もしかしたら死んでいたのは俺かもしれない──今でも時折そう後悔することがある。そう考えることがある。そして、これからも続くであろう。

 私が実家に帰省した日の夜、父から、話がある、と部屋に呼ばれた。何の話か、容易に想像できた。

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「お母さんから聞いてると思うけど、恭教の件で迷惑かけて悪いな」

 父は、私に向かって頭を下げた。

「本当に殺したんか? あいつらは」

「二番目の弟から聞いたけど、本当みたいや」

 それを聞いた私は、かねてから考えていたことを、一言一句はっきりと口にした。私が、高校生の私ができる、彼女に対しての最大限の償いを。預けられている頃から、加藤さんが理不尽に虐められていることを俺は知ってる。そのことが役に立つかは分からんけど、警察であろうと裁判の場であろうと証言したいと考えている──。

 私の言葉を、父は目を閉じて聞いていた。時間にして10分程、父は目を閉じて黙っていたが、やがて、徐に目を開くと、口を開き、他言しないでほしいという意味のことを言った。私は、何も言えなかった。結局私は、何も行動することが出来なかった。

服役を終えた叔父と叔母がいた

 平成28年6月19日。上京して2年が経ち、東京の生活にも大学にも慣れてきた頃、母から「四国のおじいちゃんが亡くなった。明日帰って来て欲しい」と連絡が来た。

 四国のおじいちゃんとは、存命中は香川県東かがわ市に暮らしていた、父方の祖父のことである。1年程前から、私と父の関係が急速に悪化していたことや、過去の因縁等も含め、私は他界した祖父のことを、正直あまりよく思ってはいなかった。また、通夜や葬式となると否が応でも親戚たちと会わなければならない。それらを考えると、あまり参列する気にはなれなかったが、おそらく同じことを思っているであろう母が、行く、と言っている手前、行かない、とは言えなかった。