2013年、愛知県南知多町の山中で、名古屋市の漫画喫茶女性従業員・加藤麻子さんの遺体が発見された。死体を遺棄したのは漫画喫茶の経営者杉本夫妻。逮捕直後は「傷害致死」についての犯行も認めていたが、その後夫婦は一転「黙秘」。結果的に起訴された容疑は「死体遺棄」のみとなった。

 加害者には「黙り得」があるのか。もしあるとすれば、私たちは「黙り得」をどう考えるべきなのか……。ノンフィクションライターの藤井誠二氏は、真実を求める被害者遺族らの闘いを追い、『加害者よ、死者のために真実を語れ』(潮出版社)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋し、県警元幹部の考えを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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事件の全体像は解明されぬまま闇に葬られた

 平成26年(2014年)3月12日、名古屋地裁は懲役2年2月の実刑判決を杉本夫妻に出した。

 死体遺棄罪の法定刑は3年以下の懲役だが、検察側の求刑は上限一杯の3年。夫婦それぞれの弁護人は執行猶予付き判決を求めていたから、被告側からすれば重たい判決だといえる。杉本夫妻は共に即日控訴したが、自ら取り下げ刑が確定した。杉本夫妻は刑の確定後、ただちに服役に入った。麻子を死に至らしめたという「傷害致死」罪には問われなかったため、刑事事件としては事件の全体像はまるで解明されぬまま闇に葬られてしまったことになる。

 判決文から抜粋してみよう。

 被告人両名は、共謀の上、平成24年4月14日頃から同月24日頃までの間に、愛知県知多郡南知多町大字内海字清水46番所在の畑において、加藤麻子の土中に埋め、もって死体を遺棄した

 被害者が死亡したことを認識すると、その死体を遺棄しようと企て、遺体を毛布にくるんで被害者が使用していた車両内に一時置いておき、他方で「死体の隠し方」、「絶対に見つからない死体の隠し方」などのキーワードでインターネット検索したり、三重県内の山を巡ったりして遺体の遺棄場所を探し、(中略)最終的に判示場所(筆者注・実況検分調書等の証拠)に埋めることを決意し、用意したスコップを用いて畑を堀り、遺体の服を脱がせ下着一枚の状態にした上で、遺体を埋めて遺棄した。犯行様態は計画的かつ用意周到である。被告人両名は、本件犯行後、上記車両(筆者注・麻子所有のワゴンR)のナンバープレートを取り外すなどした上、同車を海中に沈めようとしたが、かかる行為は犯行様態の周到さを示すものである。被害者の遺体は、約1年間土中に埋められたため、屍蝋化し、目や鼻、臓器等は失われ、白骨がむき出しとなり、生前の面影を残さない状態となっていたのであり、生前の被害者の人格や死者に対する社会の敬虔感情を害する程度は大きい。被害者の両親は、一人娘である被害者の生死が不明なまま約1年間思い悩み、遺体が発見された後も、遺体の状態に鑑みて被害者と対面することすらできなかったのであり、同人らが被った精神的苦痛もまた大きい。他方、被告人両名は、それぞれ捜査機関に対し本件犯行を自供し、同人らの供述により被害者の遺体が発見された。(後略)

 判決文では、杉本恭教が被害者の両親を被供託者として合計218万1370円を供託したことを「謝罪の意思を明らか」にしていると認定、前科がないことも「酌むべき事情」だとしている。供託とは支払い意思に対して、被害者側が受け取り拒否をしたときに、弁済供託(民法494条)の制度を使い、管轄の法務局に預けるものだ。