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自白偏重型捜査が「黙り得」を生む

 一方で日本の警察のこれまでの自白偏重型の捜査体質にも話が及んだ。今回のような展開を見せるケースは、冤罪防止のためにつくられた捜査の記録・可視化等、警察の捜査が変わらざるを得ない時代とも関係があるという指摘だ。

「自白は今もこれからも、事件を立証するのに重要な証拠に違いありませんが、自白に頼りすぎた面があったから冤罪が生まれる要因ともなりました。今は取り調べが可視化されて録画されていますが、じっさいには取調官は可視化による捜査の制限についてはあまり感じていません。取り調べの可視化によって『大声を出してはいけない』、『机を叩いてはいけない』、『(被疑者の)体を触ってはいけない』など多くの制限があり、これを被疑者に逆手にとられて、取り調べ中に被疑者が取調官を大声で怒鳴りつけたり、机を叩いたりするなど逆転現象も起きています。

 可視化については取調官は、公判でも取り調べの適正性を明らかにできるものとして、どちらかというと賛成しています。また、これにプレッシャーを感じている取調官もいないように思います。むしろ(可視化で)撮影に慣れていない被疑者が緊張したりすることがあります。

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©iStock.com

 可視化された現在でも、『黙秘します』と言われても、取調官が簡単に『はい、そうですか』というふうにはなりません。取調官は工夫をしながら聞き出そうとします。もちろん机をバンバン叩くようなことはしません。そのような不当な方法でまかれた(取られた)証拠ということになってしまい、仮に調書がまけても(取れても)公判で、『強制的に書かされました』と言われたら、(証拠としての能力が)ひっくり返ってしまうことだってあります。上申書も同じで、無理矢理書かされましたと言われたら不利になるのは変わりありません。

 ただし、弁護士が被疑者から取り調べの状態を聞き取って、被疑者の言いなりに取調べ監督制度に違反するなど抗議文を送りつけてきたりします。中身は被疑者側の言いがかりのようなものがほとんどで、自分が知る限り違反した事例はありません。

 いずれにせよ、やはり強力な物証が大事です。警察や検察は、誰がどういう理由で犯罪をおこなったのか立証しなければなりませんが、黙秘されたから、傷害致死かもしれないのに誰がやったのかわからなくなり、傷害致死事件として立てるには、とてもハードルが高いものになってしまったわけです」

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加害者よ、死者のために真実を語れ

藤井誠二

潮出版社

2021年7月5日 発売