すでに触れたように死体を埋めたと自供した場所は実際の場所の真反対で、警察は発見に相当な労力を浪費した。被害者遺族の立場からすれば、遺体の発見を遅らせるためにわざと嘘を言ったのではないかと思うのは当然だとしても、裁判所はこれを杓子定規に「捜査協力」と認定したことに私は驚いた。
「死体遺棄罪」を構成するためには、一般的には「作為的な場所移動」が必要とされ、つまり、殺人を犯した者が遺体をそのまま殺害現場に放置したままでは適用されない。殺人や過失致死等の犯人が犯罪の露見をおそれて、積極的な隠蔽行為をおこなった場合が「遺棄」にあたる。殺害した当人が死体を遺棄したことが立証されれば併合罪となり、とうぜん量刑は重いものとなる。
「死体の隠し方」をネットで検索
警察が押収した杉本夫妻と夫妻の長男の携帯電話を分析したところ、麻子の生存が第三者によって確認された最後の日(当時のアルバイト先の漫画喫茶「I」に最後に出勤した日)から、名古屋港で麻子のクルマが発見されるまでの約10日間のうちに、「死体の隠し方」というキーワードで何度も検索を繰り返していたことが判明している。「遺体の隠し方」以外の履歴には、地元のニュースサイトなども含まれており、遺体が発見されてニュースになっていないかどうかを調べていたのだと推測できる。
私は杉本夫妻らが見ていたのと同じ「遺体の隠し方」について書き込みがされているインターネット掲示板を見てみたが、ばらばらに切断して海に捨てる、山の中に掘って埋める、など実際に起きた事件などからヒントを得たような書き込みが羅列されていた。杉本夫妻はこうした情報を参考にして麻子の遺体を遺棄・隠蔽する方法を模索していたとみて間違いないだろう。
判決文は、インターネットで「死体が見つからないための隠し方」を検索するなどし、犯行を隠蔽するために土中に埋めたことも指摘している。遺体は通常半年から1年で白骨化するといわれ、死因の特定が困難になる。それを知って被害者を下着一枚にして土中に埋めたのならば、計画性の高い、用意周到で悪質な犯行だ。
加藤麻子の遺体を遺棄したのは誰なのかわかっている。杉本恭教・智香子夫妻だ。
しかし、麻子の命を奪ったのは「誰」なのか。どのようにして命を奪ったのか。そして、なぜ、加藤麻子はそのような目に遭ったのか──こんな答えのわかりきっている謎掛けのように思えることを捜査機関は物証と自白などの証拠で固めていかなくてはならなかった。「他殺死」だったということを、捜査上で得られた客観的な状況証拠の積み上げが結果的に不十分だと立証できず、「逃げ得」「黙り得」をゆるしてしまうことになる。