新型コロナウイルスの影響により、海外からの訪日客は激減した。しかし、国内の人口が縮小するなか、今後を見据えて観光立国としての経済政策・インバウンド拡大を考えないわけにはいかない。では、世界の人々から見た日本の魅力とはいったいどんなものなのか。

ここでは、日本経済新聞社企業報道部記者(当時)の中藤玲氏による『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋。世界基準で語られる日本経済の実態を紹介する。

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インバウンドバブルのその後

  海外から見ると際立つ「日本の安さ」が商機につながったのが、「インバウンド消費」だ。

「日本製の家電や化粧品は品質がいいだけでなく、とにかく安くてお買い得」

  2015年から2020年に新型コロナウイルスの感染が流行するまでの5年間、年に2~3回ほど中国から日本を訪れていた李さんは話す。

「東京、大阪、沖縄、北海道……どこに行っても美しくておいしい。そして安い」

  北京市の自宅は、炊飯器やドライヤーなど日本製の家電であふれるという。

  2012年の第2次安倍政権発足後、円安や短期滞在査証(ビザ)発給要件の緩和などを背景に、日本を訪れる外国人旅行者の数は増え続けた。2013~14年には「インバウンド消費」という言葉が生まれ、15年の訪日外国人客数は前年比47%増の1973万人に急増。ついに45年ぶりに出国日本人数を上回った。

©iStock.com

  2019年は前年比2%増の3188万人で、インバウンドが日本で使った旅行消費額は総額4兆8000億円にのぼる。

「爆買い」ブームの裏にあったリスク

  最初に恩恵を受けたのは、家電量販店や百貨店だ。

  中国人らがデジタルカメラ、炊飯器、腕時計という「日本土産の3種の神器」を大量に買い求める様子は「爆買い」と呼ばれた。その次の新定番は化粧品、温水洗浄便座、ステンレスボトル。中国圏の正月「春節」の大型連休には、東京・銀座の家電量販店の前に中国のツアーバスが乗り付ける光景がおなじみになった。

  爆買いが一服すると、彼らの目当ては「モノ」から体験型の「コト」消費へと変容する。

  爆買いもコト消費も、2014年の消費増税後の国内景気を大いに支えた。人口減少などで国内の個人消費が伸び悩むなか、政府も観光振興を成長戦略の柱の一つに位置づけていた。

  そんな爆買いの様子を、メディアはこぞって「日本の高品質が人気」だと取り上げた。