1ページ目から読む
2/3ページ目

「この人気は安さに他ならない」

  だが当時、筆者は家電量販店業界を担当しており、業界大手の幹部がつぶやいた内容を忘れられない。多くの外国人でにぎわう免税コーナーを横目にしながら、

「この人気は安さに他ならない。彼らにとっては円安以上の割安感。

  日本人が同じように海外でモノを買えるだろうか」

ADVERTISEMENT

  まさに、購買力の移り変わりだった。

  そして続けた。

「インバウンドの過度な依存は国際情勢に左右される。リスクでもある」と。

  その幹部の「危機感」が実際に起きてしまった。

  2020年初めに新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、これまでインバウンドに沸いていた全国のあらゆる光景が一変したのだ。

  観光庁が発表した資料によると、2020年1~3月の訪日外国人旅行者数は前年同期比半減の約400万人。消費額も4割減の7000億円だった。しかし4月以降はほぼ消失したと言っていい。

  インバウンドの旅行消費額は国内総生産(GDP)の「輸出」にカウントされ、2019年(4兆8000億円)は対名目GDPの1%規模にあたる。つまりこのまま感染拡大が止まらなければ、その約1%が蒸発することになる。

  だが影響はそれにとどまらず、最も深刻なのは、これまでインバウンドで活性化されていた地方や中小の関連企業の経営危機だ。

  既に兆候はある。

  東京商工リサーチによると、2020年の全国の企業倒産(負債総額1000万円以上)は7773件だった。そのうち2596件が、インバウンド需要の消失や外出自粛などの影響を大きく受けた飲食業や宿泊業などサービス産業だった。

©iStock.com

  インバウンドへの過度な依存は、リスクもはらむことを浮き彫りにした新型コロナウイルス。感染収束後も見据え、観光政策をどうしていくべきか見直しも必要になってくる。

  もちろん国内の人口が縮小するなか、観光立国としての経済政策、インバウンド拡大は重要だ。日本は近年急増したものの、他の先進国に比べるとインバウンドはまだ少ない。例えば世界一の観光客数を誇るフランスは2019年に約9000万人が訪れ、仏観光業は年約21兆円を生み出していた。新型コロナウイルスの感染拡大後、フランス政府は観光産業を重点支援している。

  日本はインバウンドの富裕層向けに、宿泊税や高額なサービス提供も一考すべきだろう。

  円安バブルや「たたき売り」の再来は、避けなければならない。