開会式直前の関係者“辞任ドミノ”に始まり、メダル候補のまさかの敗戦やダークホースによる下馬評を覆しての戴冠劇、コロナ禍で開催され、明暗含めて多くの話題を呼んだ東京オリンピック。ついにその長い戦いも閉幕しました。そこで、オリンピック期間中(7月23日~8月8日)の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年7月27日)。

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 7月26日に行われた東京五輪体操の男子団体決勝戦。橋本大輝、北園丈琉、萱和磨、谷川航の4人が全員五輪初出場であるにも関わらず、堂々とした演技でミスなくこなしていく。そして最後の種目の鉄棒で、19歳のエース橋本が高難度の技を次々に決め、一分の狂いもなく着地を決めた瞬間、なぜかロンドン五輪の競泳男子400mメドレーリレーのシーンが思い出された。

「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」

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 個人種目でメダルを逃した北島康介に対し、メドレーリレーに出場した松田丈志らが発した言葉だった。体操団体の4人も、2日前に種目別鉄棒で落下し予選落ちしたキング・内村航平に思いを寄せ、同じ思いで演技したことは容易に想像できた。

表彰台に上った代表選手たち ©JMPA

「航平さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」

 優勝したROC(ロシアオリンピック委員会)に僅か0.103及ばず、銀に終わったが、

 彼らの演技からそんな思いが伝わってきた。事実、内村の予選落ちを目撃した橋本はこう語っていたという。

「代わりに僕が鉄棒で獲って、航平さんの首に掛けたい。最高に一番きれいな色を、最高に一番似合う人に」

 体操選手にとって内村は特別な存在だった。橋本は内村を心の底から尊敬し絶対的な存在と崇めているし、北園は人生の恩人とも語っている。