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「勝っても負けても地獄なら、勝つ地獄の方がいい」内村航平は、銀メダル・体操男子にとって“特別な存在”だった――東京五輪の光と影

橋本は「代わりに僕が鉄棒で獲って、航平さんの首に掛けたい」と語った

2021/08/13
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内村にとって、金メダル以上の価値があるもの

「勝っても地獄、負けても地獄なら、勝つ地獄を味わった方がいい。実は僕、地獄を結構楽しんでいるんです。地獄の状態は僕にとってはいいプレッシャーでもある。だから心理的に、自分自身を地獄に落とそうとしているのかもしれません」

 絶対王者だった内村は、モチベーション維持が難しかったという。そのため、自分を地獄に落としやり、そこから這い上がることをモチベーションにしてきたというのだ。

 自分自身を絶体絶命の状態に追いやり、そこで生き延びてこそさらに強い自分ができると言い、艱難辛苦こそが自分を鍛え、磨き、成長させるチャンスと考えていた。

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 そこまでして勝利にこだわったのは自分の栄光以上に、実は、後輩たちへ繋ぎたいものがあるからという。

「僕のやったことって、これまで誰も経験したことがない領域。そこで掴んだものを後輩たちに伝えられたら、彼らは短期間で成長できると思うんです。日本体操界の底上げが、僕にとっては金メダル以上の価値がある」

 内村の薫陶を受けた選手たちは、団体では銀に終わったが、個人総合、種目別の競技は続く。個人総合優勝が狙える橋本は、まだ内村の首に金メダルを掛けるチャンスがある。しかし内村は照れながらきっとこういうに違いない。

「ちょっと待ってよ、僕、まだ引退しないし」

「勝っても負けても地獄なら、勝つ地獄の方がいい」内村航平は、銀メダル・体操男子にとって“特別な存在”だった――東京五輪の光と影

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