1ページ目から読む
4/4ページ目
内村にとって、金メダル以上の価値があるもの
「勝っても地獄、負けても地獄なら、勝つ地獄を味わった方がいい。実は僕、地獄を結構楽しんでいるんです。地獄の状態は僕にとってはいいプレッシャーでもある。だから心理的に、自分自身を地獄に落とそうとしているのかもしれません」
絶対王者だった内村は、モチベーション維持が難しかったという。そのため、自分を地獄に落としやり、そこから這い上がることをモチベーションにしてきたというのだ。
自分自身を絶体絶命の状態に追いやり、そこで生き延びてこそさらに強い自分ができると言い、艱難辛苦こそが自分を鍛え、磨き、成長させるチャンスと考えていた。
そこまでして勝利にこだわったのは自分の栄光以上に、実は、後輩たちへ繋ぎたいものがあるからという。
「僕のやったことって、これまで誰も経験したことがない領域。そこで掴んだものを後輩たちに伝えられたら、彼らは短期間で成長できると思うんです。日本体操界の底上げが、僕にとっては金メダル以上の価値がある」
内村の薫陶を受けた選手たちは、団体では銀に終わったが、個人総合、種目別の競技は続く。個人総合優勝が狙える橋本は、まだ内村の首に金メダルを掛けるチャンスがある。しかし内村は照れながらきっとこういうに違いない。
「ちょっと待ってよ、僕、まだ引退しないし」