開会式直前の関係者“辞任ドミノ”に始まり、メダル候補のまさかの敗戦やダークホースによる下馬評を覆しての戴冠劇、コロナ禍で開催され、明暗含めて多くの話題を呼んだ東京オリンピック。ついにその長い戦いも閉幕しました。そこで、オリンピック期間中(7月23日~8月8日)の掲載記事の中から、文春オンラインで反響の大きかった記事を再公開します。(初公開日 2021年8月1日)。
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韓国は、アーチェリー3冠(混成、団体、個人)を成し遂げたアン・サン選手フィーバーに沸いている。
韓国のアーチェリー女子団体は、1988年のソウル夏季オリンピックから9大会連続で金メダルを獲得し、世界でもトップの中のトップといわれるが、今大会から種目に混成が加わったことで、アン・サン選手は1大会3冠という五輪アーチェリー史上初の記録を打ちたてた。
小学生の時にたまたまできたアーチェリークラブに入り、アーチェリーの道へ。中学3年生の時には全国大会で全種目優勝を飾り、早々に頭角を現わした。高校時代には国家代表となり、2019年にはプレ東京オリンピック大会で優勝している。
幼い頃から高い集中力には定評があったが、弱冠20歳ながら、どんな場面でも顔色ひとつかえない強い精神力にも感嘆の声が上がる。その背景を知ればなおさらだ。
7月24日、男女混成で金メダルを獲得してから、アン・サン選手は謂われない誹謗中傷に晒されていたからだ。
「ショートカットだからフェミに違いない」
発端はインスタグラムだった。アン選手の個人のインスタグラムに、あるフォロワーが顔を顰めたスタンプを添えながら、「どうして髪の毛を(短く)切るのですか?」と書き込むと、アン選手はさらりと「ラクだからです」と返信した。とり立ててなんということはないやりとり。しかし、これをやり玉にあげたのが、韓国の20~30代の男性が主に利用するネットコミュニティサイトだった。
アン選手が、光州女子大学に通っていることから、「女子大(に通っていて)、ショートカットヘアは絶対にフェミ(フェミニスト)だ」とネットユーザーたちは主張し始めた。
そして、アン選手が過去に男性を嫌悪する言葉をSNSで使っていたとして、「男性嫌悪の言葉を使う理由は何だ?」と騒ぎ立て、しかし、アン選手からなんの反応もないと分かると、今度は大韓アーチェリー協会のサイトを攻撃した。果ては、「(男性を嫌悪するフェミニストから)金メダルは剥奪すべき」という主張まで飛び出した。