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《韓国アーチェリー騒動》「ショートカットは“フェミ”の証、金メダル剥奪を」三冠の“女王”、前代未聞の批判のワケ――東京五輪の光と影

2021/08/16
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 韓国紙社会部記者(女性)が言う。 

「女子大出身でショートカットヘアのアン選手はフェミニストだと騒いだのは、極右コミュニティサイトの『イルベ』(「日刊ベスト貯蔵所」の略)ユーザーが主に集まる通称『ペムコ(fmkorea)』というコミュニティサイトです。

 結婚しない、化粧しない、太っている、下着をつけない(ノーブラ)、これだけで彼らからはフェミニストと言われます。彼らの言うフェミニストは、単純に女性らしくない、女性らしく見えない、だから男性を嫌悪しているに違いない、という意味なんです」 

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『花より男子』女優も……数々の女性著名人が声をあげる事態に

 こうした攻撃に今度は女性らが「アン・サン選手を守ってください」とアン選手を擁護する声を上げ、この動きは政界、芸能界にまで広がった。野党系、正義党の最年少(28歳)議員リュ・ホジョン議員は自身のfacebookに「“フェミ”のような姿というものはない。望むように選択することがフェミニスト」と書き込み、ドラマ『花より男子』などで日本でも知られる俳優のク・ヘソン氏も自身のInstagramにショートカットだった頃の写真を掲載してこんなコメントをつけた。

「私は男性と女性から生まれた女性です。また、男性を愛する女性。今の社会に置かれているそれぞれの立場と主観的な解釈でフェミニストを嫌悪的な表現で歪曲したり孤立させる雰囲気を感じとって、私自身やはり女性であるためこれを眺めてばかりいられない」

女優のク・ヘソンがアン・サン選手を擁護するインスタグラム投稿とともにアップした写真(インスタグラムより
女優のク・ヘソンが「ショートカットは自由」という文言とともにアップした写真(インスタグラムより

 また、キム・スミン元SBSアナウンサーは「ごみを吐き捨てる匿名の怪物たち」とアン選手を誹謗したネットユーザーを批判している。 

「MERSは20代女性が……」2010年代に広がったデマ

 ここまで騒動が広がる背景には、韓国で深刻な問題となっている男女間の対立がある。ここ数年は特にミソジニー(女性嫌悪)が大きな問題となっていた。 

 韓国のミソジニーの萌芽のひとつは1999年、「女性や障害者などの権利を侵害している」として違憲となり、軍服務が義務づけられている男性に与えられていた「軍服務加算点制」(公務員試験などで男性に与えられていた加算点)がなくなってからだといわれている。 

 ミソジニーが表面化したのは2015年、ウイルス性の感染症「マーズ(MERS、中東呼吸器症候群)」が広がってからだ。中東から帰国した男性経由でマーズは広がったが、ネットでは「香港旅行帰りの20代女性が持ち込んだ」というフェイクニュースが拡散し、ネット上に女性を嫌悪する書き込みがあふれた。この時から「フェミニズム」に関心のなかった女性の間でもフェミニズムへの関心が高まっていく。