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虚構と現実の入り混じっためくるめく世界
次の室で展開される「Self-image」は、自分自身を被写体としたセルフ・ポートレート。自身の内側を覗き込むような写真を、蜷川は以前からずっと撮り続けていたのだ。モノクロ写真でここまでのものとはガラリ雰囲気の違う作風となるのがおもしろい。
「うつくしい日々」は、彼女の父で演出家の蜷川幸雄が亡くなる前後1ヶ月に、娘の目に映った日常の光景が写されている。「父はもうこの世界を見られない」と思えば、世界のあらゆる場所とモノが美しく感じられてきて、そんな自分の気持ちに素直に従い撮ったものだという。
かつての仕事場の近く、目黒川のほとりで出逢った桜を撮った「PLANT A TREE」や、色彩が画面から溢れ出てきそうな迫力ある映像作品を経て、展示はフィナーレとして、横長の壁の一面に無数の写真が飾られた「INTO FICTION/REALITY」へと流れ込む。
モノのクローズアップ、人物のシルエット、原色で彩られた風景などなど、蜷川はここでこの世のあらゆるかたちと色を集めて観客に見せつけてやろうとしているみたいだ。虚構と現実が入り混じった巨大な絵巻物に、こちらの身体が丸ごと呑み込まれてしまった気分になる。
言語や意味に頼らず、ビジュアルのみによってこれほどめくるめく世界を見せてくれるとは。アートに触れる愉しさと奥深さを堪能したい。