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父・蜷川幸雄が亡くなる前後1カ月のセルフ・ポートレートを… 蜷川実花はどのように「虚構と現実」を撮ったのか

アート・ジャーナル

2021/08/14

 これは他でなかなか味わえない感覚だ。愉しいエンターテインメントに触れたときの高揚感と、心の奥のほうを揺さぶられる深い感動が、同時に押し寄せてくる。

 おもしろくって、ためになる。そんな良質なエンターテインメント&アート体験をさせてもらえる展覧会が、山梨県立美術館で開かれている。「蜷川実花展 - 虚構と現実の間に -」。

 

あまりに鮮やかな色彩感覚

 蜷川実花といえば、こんなに鮮やかな色ってあるの? と誰しも驚く華やかな写真作品でまずは広く知られる。加えて映画『さくらん』『ヘルタースケルター』『Diner ダイナー』『人間失格 太宰治と3人の女たち』、AKB48やゆずのPVといった映像表現も多数発表。四半世紀に及ぶキャリアの中で、膨大なビジュアルイメージを生み出してきた。

 それらのハイライトを一挙に展観しようというのが今展だ。

 展示は9つのテーマで構成されている。会場に入るとまずはいきなり「桜」三昧だ。壁と床の全面が桜の写真で覆われており、文字通り桜に包み込まれる感覚が味わえる。満開の時期に花見をしたって、ここまで没入できることはまずあるまい。時節柄この春に桜を見られなかった人も多かろうが、ここへ来ればじゅうぶん埋め合わせができそう。

 

 続く「永遠の花」では、各所で撮られた造花の数々が、ド派手な色合いを見せて所狭しと咲き誇る。儚く散るからこそ美しいはずの花が、ここでは人間の手によって永遠の生命を与えられ、いつまでも輝き続けている。色彩の乱舞に陶然とするのもよし、花の美しさとはいったいどこからくるのか思考を巡らすのもよし。

 

 その先には一転、人物の顔、顔、顔……。よく見れば俳優、ミュージシャン、アスリートなどなど、よく見知った著名人ばかり。撮影仕事か作品撮りかを問わず蜷川は、各分野のトップランナーにカメラを向け続けてきた。その成果がここに一堂に並んでいるわけだ。「Portraits of the Time」というコーナータイトルの通り、時代を象徴する肖像が集まったさまは壮観のひとことである。