クイズ王って、10種競技を極めるようなもの
古川 しみけんさんとクイズ対決したことは今までないですが、確実に強いんです。暗記とかきちんとこなされていて、基礎的な問題に対するスピードがめちゃくちゃ速い。だから普通に地上で一流のプレーヤーになってたはずなのに、あえて地下、アンダーグラウンドな知識を競う「地下クイズ」の道を選んだ。そこがカッコいい。
しみけん いやいや……。
古川 普段、どんなトレーニングしているんですか?
しみけん トレーニングと意識してるわけではないですが、知ったことをどんどん人に話していくことで、知識を覚えていってます。あと、フリーバッティングといって、今日持ってきたんですけど、こういう問題集を無作為にバンバンバンバンやっていくんです。
古川 すごいですね、しみけんさん。「STU」(学生向けクイズ大会)の問題集とか手に入れてやっているんですね。僕よりよっぽど現役ですよ。
しみけん いや、パラ読みです。あとは答えられなかったものは、単語帳にこうやって書いて覚えるようにしてます。
古川 クイズ王って、10種競技を極めるようなものですから、どんなジャンルも鍛えなければならない。僕も嫌いな、苦手なジャンルをめちゃ覚えるようにしてましたけど、しみけんさんの努力はすごいな……。頭が下がります。
しみけん ボディービルもそうなんですけど、苦手なところから鍛えるんですよ。好きなところは放っておいても伸びるので。例えば、僕は右半身は強いんだけど、左半身が弱い。だから重点的に左を鍛えるようにしてます。弱いところから取り組めるかどうかが、チャンピオンになれるかどうかの分かれ目ですね、きっとどんな世界でも。古川さんって、一時期どれくらい勉強してました?
古川 チャンピオンになりたかった時期ですよね? 大学生の時ですけど、正月かなんかで実家に帰って、パソコンに過去問をカタカタ打ち込んで覚えてたんですよ。それが朝、親父が「いってきまーす」って仕事に出ていって、「ただいまー」って帰ってくるまで。
しみけん わー、すげー。
古川 親父が「お前、まさか」って。毎日12時間ぐらいずっと打ち込んでました。
徳川家康と西村顕治はほぼ同じ
しみけん 不思議なんですけど、打ち込んで覚えるんですか?
古川 わかんない問題を打ち込んで、まず1回覚えるんです。問題と答えを丸ごと。で、それを問題集にして、クイズ仲間に出題したり、出題してもらうことで2回目、体得するという感じです。
しみけん 伝説のクイズ王、西村顕治さんがパソコンでカチャカチャカチャ、スコーン! って打ち込んでトレーニングやってたのと似てる。
古川 僕はいわゆる「クイズ王ブーム」を知らないクイズ世代なんです。ポスト・ウルトラ世代というか。だから、西村さんのことも、本当に伝説としてしか存じ上げないんです。
しみけん 西村さんは僕のアイドルです。クイズ番組は僕、めっちゃ見てましたから。西村さんがすごいのは、演者として悪役に徹してたところなんですよね。強すぎる人だったから、番組が「打倒・西村顕治」みたいに作るわけ。それにちゃんと応えて「かかってきなさい」ってやってくれるんだもん。最高。大好き。
古川 あはは、柔道着姿での。見たことあります。僕にとって、徳川家康と西村顕治はほぼ同じ。会ったことないすごい人という意味では。
しみけん 早押しの速さでは、古川さんに重なるところがあると思う。
古川 西村顕治の再来みたいに言われたこと、ありますよ。体格もあいまってか、重ねられて。でも、絶対的知名度は西村さんが格段に上。ヒールを担いながら、あれだけの人気があったというのは、やはりすごい。
しみけん クイズ史の最重要人物ですよね。「アマゾン川で」ポーン「ポロロッカ」。
古川 山川の教科書なら太字ですね、完全に。
早押しの押し方には、人それぞれの美学がある
しみけん 僕が夢中で読んでいた本に長戸勇人さんの『クイズは創造力』シリーズがあって、その理論編にクイズの問題文構造分析、というのがあったんです。「アマゾン川で」なのか「アマゾン川が」なのか、その1文字で答えが変わってくるぞと書いてあったんですが、それを実践的に見せてくれたのが「ポロロッカ」0.9秒の伝説、西村顕治。
古川 早押しのスタイルも、まさに演者の風格がありました。
しみけん 地下クイズ王に出たときの押し方は、西村さんにかなり影響受けてますね。あの押し方、フォロースルーっていうんですけど、どうやったらカッコよく見せられるか、研究しました。右半身前で、腕相撲の原理と同じで、肘を鋭角に曲げて神経の速さと力が出やすいようにして。
古川 確かに押し方は、人それぞれの美学があるんですよね。
しみけん TBS「史上最強のクイズ王決定戦」の初代チャンピオン、水津(康夫)さんはサウスポーで押し込む感じ。最近だと篠原かをりちゃんなんか、特徴的な押し方しますよね。見てると面白いですよ、野球のバッティングフォームみたいで。
古川 クイズ史における水津・西村時代は、日本史でいう桂園時代のようなものでしょう。僕は生で体感できなかった世代ですが、伝え聞くほどにすごい時代だったんだろうなって、いつも思います。
しみけん いやー、本当に。あの時代のことは、いくらでも語れるよ。石野まゆみさんの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の答えも好きだったなあ……。