文春オンライン

《追悼》タフで優しい“地上最強の男”アクション俳優・千葉真一が残したもの

2021/08/20
note

「彼に万一のことがあったら、僕も…」壮絶な決意で臨んだ撮影

 そんな“後進の育成”に生涯力を注がれた千葉さんならではのエピソードがある。

 映画『戦国自衛隊』(’79年/主人公・伊庭義明三尉役)のDVD-BOX収録の特典映像の構成と制作を手がけさせていただいた際、秘話をたくさん伺った。特に印象に残ったのは、当時JACの一員で、子役時代から千葉さんが手塩にかけた真田広之さんとの共演だった。

『キル・ビル』では出演だけでなく剣術指導も行った(2003年撮影) ©getty

 真田さん演じる武田勝頼が、自衛隊のヘリに潜入。搭乗員を見事瞬殺し、飛行中のヘリから飛び降りるシーンがあるのだが、千葉さん同様真田さんも吹き替えなしで演じており、今観直しても危険極まりない。

ADVERTISEMENT

 千葉さん曰く「真田君に万が一のことがあったら、僕も死のうと心の中で決めていました。もちろんそんなことは本人には言わなかったけどね。でもそう覚悟しなきゃ自分もやっていられませんよ」。千葉さんのその想いが伝わったのか、真田さんは、一度は監督をはじめ周囲が止めたにも拘らず、頑として自分でこのアクションをやると言って聞かなかったという。

 特撮ヒーロー好きな筆者は収録の休憩時間に『戦国自衛隊』以外のお話も多々伺った。石ノ森章太郎先生原作の『ロボット刑事』(’73年)第1・2話に、千葉さんはゲスト出演している。

 じつは千葉さんも『新 七色仮面』(’60年)という特撮ヒーロー出身だが、この当時はもう子供番組は卒業していた。

千葉真一さん(1979年撮影) ©時事通信社

「『ロボット刑事』は僕の弟の千葉治郎が主役(新條強刑事役)だったから。もちろん主役はロボットの刑事だけど、人間側の主役ということでね。当時は『仁義なき戦い 広島死闘篇』(’73年)とかで殺人的なスケジュールだったけど、少しでも弟のはなむけになればと、思って」

 と、千葉さん。再編集してその夏に公開された劇場映画のナレーションでもいきなり

「新條刑事の兄、弁護士・新條敬太郎も事件に協力する。敬太郎の役を演じているのは新條刑事役の千葉治郎のお兄さん、千葉真一である」

 と説明され、いかに千葉さんの出演が特別だったかを子供心にも感じさせられた。