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伝説のヤクザが足を洗って「専業主夫」に…フリーランス、共働き、48歳男性の心に『極主夫道』が刺さった理由

2021/09/10
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 1つ目は第1話(1巻に収録)。

 朝。両肩と背に龍の刺青を入れた上半身を晒しながら顔を洗い、スーツを纏い、ティアドロップのサングラスを掛け、エプロンをつける龍。手際よく卵焼きを作り、包丁として愛用する匕首(ドス)で均等に切り、妻・美久の弁当箱に詰めていく。だが、当の美久は「やばい遅刻だ!!」と、朝食も取らず、龍が弁当を用意したことにも気づかずに家を飛び出す。龍は弁当箱を汁漏れ防止のジップロックに入れ、さらにアタッシェケースに収め、「お弁当ぉ忘れてるでぇぇ!!!」とママチャリを飛ばして美久の後を追うも、巡回中の警察官に止められて職質を受ける。

©おおのこうすけ(新潮社)

職質は“男らしさ”のブーメラン

 かねてから職質を受けることの多かった自分だが、それは新宿や六本木を歩いている時くらいだった。しかし、結婚し、子供をもうけ、日中に地元のスーパーなどをママチャリで回るようになってからも「どこ行くのかな~?」と呼び止められており、その回数は明らかに以前より多い。警察官からすれば「こんな時間に、いい歳した野郎がフラフラしやがって」「その自転車、盗んだんだろ?」「叩きゃ、なんかホコリ出んだろ」ということなのだろう。

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©おおのこうすけ(新潮社)

「スーパーに行くだけなのですが」「息子を保育園に送り出した帰りなのですが」と訴えても、主夫業というのは同じ男どもからすれば“まだまだ存在しない”ものなのかもしれない。だが、そうした「男子厨房に入らず」に基づいた概念は男が作ったもの。龍が受ける職質はまさに“男らしさ”のブーメランであり、俺の胸の奥深くに突き刺さった。そのブーメランを抜き、他の主夫に飛ばぬように折ってしまえ。そんなことを龍が身をもって教えてくれた……とは考えすぎかもしれないが、考えすぎてもいいエピソードだ。