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「生涯、この事後悔するよ」と裁判長に言い放ち…福岡県警は“最凶組織”工藤会をどう壊滅させたのか

「県警VS暴力団 刑事が見たヤクザの真実」より #3

2021/08/24

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

企業情報班の活躍

 もう一つ拘ったのは、企業に対する情報収集専門の係を設けることだった。これも希望が通り、捜査四課の情報収集に優れた警部補と巡査部長の2人で企業情報班が誕生した。

 この頃には工藤會だけではなく、工藤會に資金を提供している事業者や市民も、取り締まる必要があると考えるようになっていた。

 これは「敵の味方は敵」という発想である。兵法でいえば、敵主力と直接戦い、敵を倒すというクラウゼヴィッツ以来の戦略ではなく、敵主力を支えている兵站拠点や、敵側同盟国を切り崩すという戦略だ。

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 暴力団は、まだまだ社会にしっかり根を張っている。それは支える市民や事業者が存在しているからだ。いくら地上の葉や幹を刈り取っても、根が残っていれば、再び生い茂ってくる。

 根を絶つためには、暴力団を支える一部市民や、事業者、そして新たな暴力団員の供給源に打撃を与えなければならない。そのためには工藤會に対する直接取締りだけではなく、それを支えている一部企業に対する取締りが必要だと強く感じていた。

©iStock.com

 そこで活躍したのが情報班の2人だ。

 ポイントとなったのは情報班を取締りとは完全に分離したことだ。それまで、暴力団取締りにおける情報収集は、基本的に事件捜査のためのものだった。だが自分を捕まえようとしている捜査員に本音の話は誰もしない。情報班は純然たる情報収集目的で動いた。

少しずつ本音の話が聞けるように

 情報班は工藤會と関係があると思われた地元建設業者にどんどん会っていった。

 当然、最初から本当の話をする者は誰もいない。ただその頃は建設業界の景気は厳しさを増しており、バブル期のように事は運んでいなかった。建設業界で常態化していた談合に対しても取締りが強化され、以前のように高額での落札は難しくなっていた。そのため工藤會へみかじめ料を渡す余裕もなくなっていたのだ。

 そんな中、福岡県警が工藤會対策に本気で取り組んでいることは、彼らも肌で感じていた。経営者側の事情もある。世代交代の時期を迎えた経営者も多く、自分はともかく、息子たちの世代にまで、工藤會との関係を引きずりたくないと考える業者も出てきた。

 情報班が業者と繰り返し顔を合わせるごとに、少しずつ本音の話が聞けるようになっていった。

「生涯、この事後悔するよ」と裁判長に言い放ち…福岡県警は“最凶組織”工藤会をどう壊滅させたのか

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