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父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由

『ラストエンペラー習近平』より #1

source : 文春新書

genre : ニュース, 国際, 政治, 歴史

note

「毛沢東チルドレン」として

 ところが、習近平は、その毛沢東を、「偉大なリーダー」として国民に尊敬するよう求めているのだ。米中間の衝突が激しくなったここ数年間に、習近平は「毛沢東の演説や著作を研究せよ」と指示し、ことに『持久戦論』などをよく読めと奨励している。これは毛沢東が劣勢な中国共産党が旧日本帝国にどうしたら勝てるかを説いたものであった。2016年の全国人民代表大会(全人代)では、チベット自治区の代表が胸に「習近平バッジ」をつけていたことが、「毛沢東以来の個人崇拝の復活」と話題を呼んだ。また文化大革命についても、習近平は「改革開放の30年によってその前の30年を否定しない」と発言しており、近年の歴史教科書からも文革を批判する文言が姿を消している。

 そして習近平は、これまで江沢民(こうたくみん)や胡錦濤(こきんとう)の行ってきた少数のトップ幹部による集団指導体制を脱し、自分ひとりに権力を集中させ、死ぬまでその椅子に座り続ける「皇帝」になろうとしている。そのモデルが毛沢東なのだ。習近平が目指しているのは毛沢東との一体化であり、ある意味では実際の毛沢東以上に、より完璧な毛沢東になろうとしているのである。

 毛沢東は習近平の家族に過酷な運命を強いた人物であり、習近平自身も非情な扱いをされている。それなのに、なぜ毛沢東との一体化を目指すのだろうか。

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 多くの幼児虐待の専門家が認めていることだが、外部の人間が、子どもが虐待を受けていることに気づいても、その子ども本人が虐待をしている親の元に留まりたいと思うケースは少なくない。

 そうした子どもたちは、自分が間違っているから親に𠮟られているのだ、と考え、今よりももっといい子になろう、親の言うことに従い、「正しい行い」をすることで許しを得よう、と考えてしまうのである。